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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第二話 唸声
23/133

(18)




「座って」




アリーの声に4人は何も言わずに従うと、長老がジェドを呼んだ。




「怪我は」



「……ロープの痣くらい」




浜に突っ込んだ際に締めつけられたものだ。

長老は小さく数回頷くと、横で寝ている彼に向かって続けた。




「ちょいと見てくれるか」




座ったばかりのジェドが目を瞬き、恐る恐る立ち上がる。

そわそわと落ち着かないシェナが、フィオに寄った。

ビクターとフィオも首を傾げ、離れていくジェドの背中を眺める。






 長老に呼ばれたジェドは、目をみるみる見開き、静かに驚いていた。

そこで眠る彼は、顔色が良く、肌も島暮らし特有の日に焼けた色をしている。

体格がしっかりとしており、茶色の短髪をし、少し髭を生やしていた。

表情にはまだ、疲労を滲ませている。




「違う…」




圧倒的に良く変わり果てた男性の姿に、ジェドがポツリと呟いた。

後の3人が顔を見合わせると、ガタガタと音を立ててそこに駆け寄る。






 「ふにゃふにゃじゃない!」




シェナの一言に、長老の白髪の奥の目が大きくなる。




「もっと白くて、骨が無いみたいで、でも骨はあって、痩せてて、俺達より小さかった!」




ジェドが早口で説明する横で長老が低く唸ると、フィオがおもむろにある物を取り出した。

沈船から離れる際に拾った、四角い塊だ。

海草が沢山巻きつき、フジツボまで付着したそれに、皆が目を奪われる。




「それはどうした」




長老は目を逸らさないまま、優しく訊ねる。




「……本じゃねぇの?」




ビクターがフィオの頭の上から覗き、言った。




「そんな物まで持ってきたの…」




アリーが恐ろしいと言いたげな声で呟く。

長老は静かにフィオから受け取り、ぐるっと外見に目を這わせた。






 本で間違い無いが、長老やアリーが知っている物とは随分違う。

表裏とも何にも覆われておらず、大きさが不揃いのページが露出し、固定は糸だが通常見るものではない。

何か、別の硬い素材をしていた。




「何か書いてるみたいなんだけど…読めなくて」




フィオが言う。

4人は周囲の大人と比べ、文字にそこまで接点が無く、詳しくない。






 長老は少し爪を立てながら、しかし損傷しないよう、表か裏か分からない面を引っかいていく。

付着した海藻や細かい貝類が、ポロポロと剥がれてきた。

4人は興味津々で、それに目と体をうんと寄せていく。




「……島…」




長老が呟いた。

擦れた字の上には長い海藻が這って伸び、裏側にまで回り込んでいる。

それを力強く引き千切った。

ベリベリとした音が鳴り、徐々に別の文字が浮かび出す。




「……空か…」




目を窄め、次に見えた文字を声に出した。

そこへ、長老の足元にひらりと何かが落ちる。

薄茶色の紙のような物に気付いたアリーは、拾い上げてしげしげと眺めた。




「木じゃないかしら……随分と上手に薄くしてある」




ガリガリと音が鳴り、間も無くその全貌が明らかになろうとする。

ただ何かしらの糸で綴じただけの、海藻の跡が派手に付着した表紙と思しきそこに、明確な単語が現れた。




「空島…グリフィン…」









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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