(18)
「座って」
アリーの声に4人は何も言わずに従うと、長老がジェドを呼んだ。
「怪我は」
「……ロープの痣くらい」
浜に突っ込んだ際に締めつけられたものだ。
長老は小さく数回頷くと、横で寝ている彼に向かって続けた。
「ちょいと見てくれるか」
座ったばかりのジェドが目を瞬き、恐る恐る立ち上がる。
そわそわと落ち着かないシェナが、フィオに寄った。
ビクターとフィオも首を傾げ、離れていくジェドの背中を眺める。
長老に呼ばれたジェドは、目をみるみる見開き、静かに驚いていた。
そこで眠る彼は、顔色が良く、肌も島暮らし特有の日に焼けた色をしている。
体格がしっかりとしており、茶色の短髪をし、少し髭を生やしていた。
表情にはまだ、疲労を滲ませている。
「違う…」
圧倒的に良く変わり果てた男性の姿に、ジェドがポツリと呟いた。
後の3人が顔を見合わせると、ガタガタと音を立ててそこに駆け寄る。
「ふにゃふにゃじゃない!」
シェナの一言に、長老の白髪の奥の目が大きくなる。
「もっと白くて、骨が無いみたいで、でも骨はあって、痩せてて、俺達より小さかった!」
ジェドが早口で説明する横で長老が低く唸ると、フィオがおもむろにある物を取り出した。
沈船から離れる際に拾った、四角い塊だ。
海草が沢山巻きつき、フジツボまで付着したそれに、皆が目を奪われる。
「それはどうした」
長老は目を逸らさないまま、優しく訊ねる。
「……本じゃねぇの?」
ビクターがフィオの頭の上から覗き、言った。
「そんな物まで持ってきたの…」
アリーが恐ろしいと言いたげな声で呟く。
長老は静かにフィオから受け取り、ぐるっと外見に目を這わせた。
本で間違い無いが、長老やアリーが知っている物とは随分違う。
表裏とも何にも覆われておらず、大きさが不揃いのページが露出し、固定は糸だが通常見るものではない。
何か、別の硬い素材をしていた。
「何か書いてるみたいなんだけど…読めなくて」
フィオが言う。
4人は周囲の大人と比べ、文字にそこまで接点が無く、詳しくない。
長老は少し爪を立てながら、しかし損傷しないよう、表か裏か分からない面を引っかいていく。
付着した海藻や細かい貝類が、ポロポロと剥がれてきた。
4人は興味津々で、それに目と体をうんと寄せていく。
「……島…」
長老が呟いた。
擦れた字の上には長い海藻が這って伸び、裏側にまで回り込んでいる。
それを力強く引き千切った。
ベリベリとした音が鳴り、徐々に別の文字が浮かび出す。
「……空か…」
目を窄め、次に見えた文字を声に出した。
そこへ、長老の足元にひらりと何かが落ちる。
薄茶色の紙のような物に気付いたアリーは、拾い上げてしげしげと眺めた。
「木じゃないかしら……随分と上手に薄くしてある」
ガリガリと音が鳴り、間も無くその全貌が明らかになろうとする。
ただ何かしらの糸で綴じただけの、海藻の跡が派手に付着した表紙と思しきそこに、明確な単語が現れた。
「空島…グリフィン…」
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




