生き残った人々
terra.WORLD Series 代表作 第1弾
LEGEND(伝説)シリーズとして3部作公開します
今回の舞台とテーマは海と空
子どもに戻った気持ちで冒険を楽しみたい方向けです
起きてしまった天変地異 カタストロフィの後の地球で生きる人々の物語
その夜。
街を吹き抜ける風は刃に触れるようで、肌が痛んだ。
厚い雲は、血を滲ませたかと思わせる程に赤く染まっている。
人工の明かりが彩る都会。
人が、車が、ただすれ違い別れていく。
その時、黒い何かが笑った。哂い続けた。
人々は不意に足を止め、辺りを見渡す。
代わり映えしない日常に、例え難い違和感がするのは気のせいか。
しかし、風が止んだ途端、起こる。
街中の生き物が奇声を上げた時、急変する一帯や空気に、人々は視線を不安に泳がせた。
激しい動悸に合わさる振動。
それに伴い地鳴りが轟くと、忽ち足が崩れる。
瞬く間に崩落する建造物は次々と地面に呑まれ、四方八方、幾重にも走る亀裂が後を絶たない。
来たる、運命の時。
史上最悪の大地震は、世界を瓦礫の山に一変させた。
狂暴化した地球に人類は揺さぶられ、埋もれ、生命を絶たれる。
間髪入れず、陸地を呑もうと迫り来る大津波。
それは、大地と引き合い続けてきた魂の糸を、容易く千切り続けた。
地球の怒りは留まる事を知らず、ありとあらゆるものを奪い、潰した。
漸く事象が治まった時。
人々は、大半の陸地と命が掻き消された世界を呆然と眺める。
散々な一時を乗り越え、尚も生き延びていると悟ると、あらゆる恐怖が一気に押し寄せ涙した。
成す術無く、身を動かす力も湧かない。
これまで踏みしめてきた陸地や生活、家族はどこへやらと、彷徨うように探し求めて宙を搔く。
その時、目に飛び込んだ毒々しい色をした大海原と、瓦礫の地。
ここにはもう、それら以外に何も遺されていなかった。
泥や海に横たわる壊れた建屋の柱や壁に掴まり、何もかもを失った無色の世界で、只管に不運を嘆く。
巨大地震の後に齎された静寂は、全身に負った傷以上の苦痛を与えてくる。
力尽きてばかりではならない。
皮肉にも、これまで通り何ら変わらず昇る太陽が、後押しするように陽光を射し込んでくる。
黒い水平線と、辺りを舞う砂煙を貫き、人々に浴びせた。
一体どれだけ俯き、佇んでいたのか。
陽射しを少々遮りながら、彼等は漸く立ち上がる。
例え僅かであっても、生き延びる可能性を見つけようと、覚悟を決めて。
遺された者達が、陽光が照らす遠い漆黒の海で見つけたのは、寂しく浮かぶ島や、大陸の断片。
そこは、瓦礫の山と化した嘗て身を置いていた場所に比べ、天国のように思えた。
あらゆる植物や漂流物も確認できるものの、全て自給自足せねばならないのは、気が遠くなるばかりだった。
今まで頼りにしていた店や工場は無い。
遺された僅かな物や、海底に沈んだ物を引き上げるなどし、命を懸命に繋いでいく事に努めた。
やがて時が経ち、新たな生命が誕生し始める傍ら、世を去る者も。
馴染みつつある生活を送る中、新しい平和を築き続けた。
ちっぽけな島には集落がポツリと姿を見せるようになる。
あの大惨事が嘘だったかのように、今やすっかり穏やかさを漂わせていた。
そこへ、波が瞬時に勢いをつける。
まるで生きたような動きをするそれは、ふと風向きを変えると、低い笑い声を立てて消えた。
未だ人類が生きる世界に、再びを齎そうと。
terra.WORLD 第1作目 代表作
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
「大海の冒険者~人魚の伝説~」
「大海の冒険者~不死の伝説~」2作に渡って閉幕します。