(13)
5人は海面に飛び出した。
ジェドはロープで繋がるシェナを引き寄せる。
彼女の無事を確認すると、岩場へ先に上れと指示し、ロープを切らせた。
彼は救出した男性を抱え直し、自分のジェットスキーまで連れて泳いだ。
ジェドは、救出した彼の冷たさと見た目に肌が粟立つ。
それに、骨が入っていないのかと思う程、体に固定感が無い。
お陰で共に泳ぐのに不安定で、つい舌打ちをした。
「おいおっさん!しっかりしろ!」
これではまるで、島にいる自分よりも小さな子ども達を相手にしているようだ。
何ならまだ、彼等の方が上手く泳ぐだろう。
ジェドは何とか岩場まで辿り着くと、男性を再び脇の下から抱え直し、引き上げた。
しかし首が座っておらず、彼の顔は大きく着水した。
不安定過ぎる状態に苛立つジェドだが、もうどうでもいいだろうと諦める。
そもそも海中で酸素も無しにいた、化け物なのだから。
ビクターが大きく息を吸いながら、仰向けになって海月の如く泳いでいた。
フィオが彼をロープで引きながら、拾ったものに大口を開けて咥え、片腕で水中を搔いていた。
ジェットスキーに到着したシェナが、後方から来る2人を見る。
ビクターが力尽きている姿に仰天したが、すぐさまジェドに呼ばれた。
「引き上げてくれ!」
ふにゃふにゃの男性に苦労するジェドの元へ、岩を伝って回る。
「何なのこの人!」
ジェドはシェナに彼を支えるよう託すと、息を整えようと岩を掴んでじっとした。
「ありがとうジェド」
背後から、追い付いたフィオが声を掛け、咥えていた物を手にして見せた。
「何だそれ」
「拾ったの。早く見よう!」
疲れ知らずの彼女にジェドは呆れる。
こちらは妙な物を運んで、息切れしていると言うのに。
やがて、自分の真横に仰向けになったビクターが、フィオにロープで引き寄せられて到着した。
「死ぬかと思ったぜ……」
岩にコツンと頭頂部をぶつけても、彼は何ともない様子でしばらく浮かんでいた。
「何?この人イソギンチャクなの?」
フィオの声が岩の上から聞こえてくる。
シェナと力を合わせて肩から支えると、そのまま岩に沿って横移動し、ジェドのジェットスキーに乗せた。
ハンドルと座席の空間に、やや押し込むように扱われる男性に、ジェドは笑いが込み上げる。
その笑い声にビクターが漸く体勢を変え、様子を窺った。
「気持ち悪ぃやつ。
途中で変わってやんねぇからな」
ビクターはそう言って軽快に泳ぎ、ジェットスキーに向かった。
其々が移動の体勢を整えていく。
ジェドは、自分の股部分に収められている、明らかに大人であろう子どものような彼を改めて、気味悪く観察した。
小さく丸まり、細く息をしている。
薄い皮膚越しに骨出っ張り、強調されていた。
顔や体には点々と傷を負い、体が小さいとはいえ重量はある。
来る時よりも速度は出せないし、出さない方がいいだろう。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します