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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第二話 唸声
17/133

(12)




 窓を抉じ開けようとし続けるビクターとジェドは、再び現れた化け物にゾッとした。

ジェドが軽く窓を蹴って距離を取る。

その者と目が合ったと思うと、冷静を取り戻し、下がれと手で伝えた。




 フィオの言う通り、髭を生やした男性で、茶色い瞳をしている。

抵抗する事もなくジェドのサインを捉え、素直に後方へ下がっていくではないか。






 ビクターがそれを確認すると、破壊の勢いを更に増す。

いよいよ槍が船内に貫通した。

大きな隙間が窓と船体の間にできると、透かさず両手を掛けて引っ張る。

バキバキと音を立てながら、遂に窓が外れた。

その先には、白い彼が呆然と佇んでいる。




 フィオは船縁に手をつき、恐る恐る手を差し伸べた。




(早く…)




恐怖が邪魔をし、伸ばす腕を半端な位置で止めている。

ジェドは端で、じっとその男性を見据えていた。

なかなか近寄ろうとしないので、フィオが上半身を船内に思い切って入れ、彼を掴もうと接近する。

彼女が船内に落っこちるのではないかと、シェナが慌ててその腰を引っ張った。




(早く来て!)




フィオが念じながら腕を伸ばした。

そこにはもう、目前の彼に対する恐怖など消え、酸素が尽きてしまう事に焦りを感じていた。






 やがて、白くて細い手が弱々しく伸びてくる。

相手もまた、信じられないようなものを見る目だ。

しかし随分小ぶりで、瘦せこけている。

島で共に過ごす男性とはかなり違っていた。




 ちゃんと服を着ている。

足も確認でき、しっかりとした人間の姿をしているが、呼吸はどうなっているのだろうか。

フィオは、接近する彼の指先から冷たい温度を感じた。

そして(ようや)く触れた時、彼女の方から大きく彼の手首を掴んだ。

それを捉えたビクターは、シェナに引っ張れと合図し、一緒に彼女を船内から引っ張り出す。






 まるで白い糸が出るようにヌルリと出没した彼は、状況が分からないのか、ただ浮遊してしまっている。

泳ぎもしない、まるで海月(クラゲ)のように彷徨いながら浮かぶ彼の様子に、ジェドは険しい表情で引いた。

自分が前に乗せて運ぶとは言ったものの、どこをどう掴めばよいのだろう。




 考えた末に彼は、今にも砕けて消えそうな男性の胴体に腕を回し込み、海面に向かって浮上していく。

瞬きもしないその彼は、一体どこを見ているのだろう。

一点に集中しているようで、フィオはその視線を辿って海底に振り向いた。

その先の地面に落ちているのは、破壊した窓の残骸だが




(違う!)




浮上しようとする最中、フィオが逆走して再び潜り始めるのをビクターが肩を掴んで止める。

フィオは彼に、行き先を指し示した。






 ジェドとシェナが先に浮上していくところ、後の2人が捉えたのは、窓よりも小ぶりの四角い塊だった。

海藻や貝類が纏わりついているが、明らかに文字が見える。




 ロープで繋がる2人はそのまま共に潜り、それを掴んだ。

フィオが眺めようとするが、ビクターは後にしろと彼女の肩を叩き、そのまま腕を引いて海面に急ぐ。

彼の酸素はもう、殆ど無かった。









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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