(11)
「ええー!」
シェナが叫ぶ横で、ジェドが気乗りしないままよそに向いた。
フィオは、一度だけだとジェドの腕を掴んで頼み込む。
そこへ、ビクターがジェドを呼んだ。
「叩き割るのはお前と俺。
多分、あと数か所刺して蹴りゃあいい」
「で、どーすんだよその後」
彼は未だ皆に目を合わせようとしない。
「私が中に入って引っ張り出す。
窓の広さを見てもその方がいい」
ジェドが小さく唸ると、それで、と更に策を求める。
静まっていた風が再び吹き始めると、四人はだんだんジェットスキーから遠ざかっていく。
「状況によっては俺も中に入って引き出す。
お前は海面まで引っ張れ」
ビクターの指示に、ジェドは深々と溜め息を吐いた。
どう考えても良い気がしない。
「頼む。行くぞ、嵐になる前に」
「おい」
淡々と実行しようとするビクターを、ジェドがようやく引き留める。
濡れた黒い短髪が、強風に煽られて細かいしぶきを散らしていた。
「……引き上げたら、俺が前にそいつ積む」
フィオはふと緊張が解け、笑みを浮かべた。
「頼んだ」
ビクターはレギュレーターを咥え、颯爽と海中に消えた。
「ちょっとー!」
フィオがシェナの手を掴むと、そのまま彼女の口にレギュレーターを突っ込んだ。
照明は、海中でシェナに預けられた。
ビクターを先頭に連なって泳いですぐ、沈船に再び到着した。
あの化け物は窓から姿を消している。
また現れるであろう青白い顔を思い出すと、皆は胸騒ぎがした。
作戦通り、ビクターとジェドが配置についた。
手早くナイフを掴むと、窓枠に刺し込んでいく。
ミシミシと、先程よりも大きく派手な音が立ち続けた。
フィオはそれぞれが繋がるロープを解くと、シェナとジェド、自身とビクターに別れるように繋ぎ直す。
窓枠がほぼ外れ、いよいよ窓を乱暴に叩くのだが、ビクターは手を止めると槍に持ち替えた。
それを思い切り窓の上の船体に突き刺して支えにし、そのまま窓を両足で蹴るが、壊れない。
ジェドがそれを見てじっと考えていると、船室の奥で白い何かが動き、肩がつい跳ね上がる。
(……いる)
気持ち悪い事この上ないが、彼は気持ちを整えるべく一度目を閉じた。
その後、槍を杖にして浮上すると、船内と窓に若干開いた隙間に槍を大きく刺し込む。
そのまま槍を手前に引くと、剥離音を立て始めた。
大人から聞いた事がある、テコの原理というやつか。
ビクターは思い出すとすぐさま浮上し、ジェドの真似をする。
フィオとシェナも、彼らに釣られて浮上していた。
フィオはそこで、シェナを安心させようと手を繋いでいる。
そのままじっと船内を見ていると、白い物陰が現れた途端――
「っ!?」
化け物は、窓に勢いよく張り付くと四人に驚き目を剥いた。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します