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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
Epilogue 
131/133

大海の冒険者




※本部で完結します

 約1800字でお送りします







 月夜。

それは未だ、避けられない別れがもたらした幸福を、藍色で複雑に彩っていた。

そこに散らばる星々は、岸辺に揺れる炎を静かに見守っている。






 島中は歓喜に犇めき、暫し混乱していた。

大きな理由は、膨大な資材が空島の神々によって引き上げられた事。

沈没した漁船のガラクタだけでなく、すっかり見る事がなくなった鉄材にガラス、プラスチック容器までもが浜に大量に積まれていた。

それらは嘗て、自分達が散々利用し倒し、廃棄してきた物。

どれも今となっては、蒸留や調理など圧倒的に使い道がある貴重な優れ物だ。

当時の事情に応じ、当然のように扱ってきた。

現在の生活を送るようになってからは、喉から手が出る程それらを欲するようになった。

それらをこんなにも貴重なものとして扱う事になるなど、思ってもみなかった。




 明日から早速、造船作業を始める。

その計画も楽し気に、興奮を滲ませながら飛び交っていた。

その合間を縫うように、四人は空島での事をあれこれ聞かれた。

しかしどうにもこうにも、上手く話せなかった。

後々急激に襲ってきた疲労と空腹が邪魔をするせいもあったが、思い出そうにも、あの数々の凄まじい出来事がぼやけている。

目を疑うあらゆる現象や体験を並べ、大人達を圧倒させてやりたかった。

なのに、適当に湯浴びと食事を済ませると、逃げるようにその場を離れ、ひっそりと浜に佇んでいた。






 遠くの海に向かって、小石を投げる音が立つ。

何の変化もない、普通の波紋を広げては消えるそこを、ジェドは無言で見つめていた。




「魚、跳ねないね」




もう青くない炎を横に、シェナは呟く。

隣でフィオが、静かに遠くを眺めていた。

磯の香りに満ちた風は、髪を火と共に靡かせ、背後の林に音を立てる。




 そこへ、何かが重い音を立て細い水柱を上げた。




「跳ねた」




ビクターの声に、皆が音の方を見る。




「凄く大きかったわね」



「明日の飯」




フィオの声を横にビクターは立ち上がると、ジェドの横に来ては石を握った。

もう光る透明な石でも何でもないそれを、海面へ滑らせるように水平に投げる。

石が四回跳ねて沈むのを、ただただ無言で見届けた。




 話したくないのではない。

ただ、今は信じ難い怒涛の時間が終わった事に勝手に浸ってしまうのだ。

夢だったのではないかとも思うほどに、島も空も恐ろしく穏やかだ。

しかし、握った鋼や角、鬣、何よりリヴィアの温度はその手に確実に残っている。

そしてもう一つ残ったのは、一体自分達が何なのかという事だ。




 ジェドは両手をポケットに入れ、月光を受けて揺れる黒い水平線を見つめる。

その横で、ビクターが夜空を見上げた。

点々と浮かぶ星とちっぽけな月から、彼らの目を思い出す。






 四つの無言の背中が温められていくところ、砂を踏む音が近付いてきた。




「随分静かだな」




四人から湧き出るどこか不安な様子を、グリフィンがそっと解く。

振り返ったそこに立つ彼の姿もまた、夢ではない。

集まる勇ましい視線はしかし、疲労で少々重たい瞼に押されていく。

静かな波の音が、優しい眠気を催す。




「よくやった」




静かに、だが強く放たれた言葉は順に、勇者達の光る目を辿る。

そして、最後に留まったのはビクターだ。




「な」




声だけだというのにまるで撫でられたような気がして、ビクターは静かに笑って顔を伏せる。




「火が尽きるまでまだあるぞ。何から話すかな」



「本……」




ジェドがグリフィンの言葉に被せるように言った。




「失くした……ごめん……」



「役に立ったか?」




勿論だ。

そう口々に表情を変えて訴える四人に、彼は今度は安心して笑い声を上げる。




「また作ればいい。次は君達が遺せ」




そう言うとグリフィンは、立ち込める火に目を向ける。




「字なら教える。知識も。これからずっと……な」




小さな感嘆は火を囲み、影を柔らかく揺らす。




「伝説にするんだ。その経験と、力で。

彼女が言ったように……」






 青白い月が浮かぶ夜空で、一番星が周りに仲間を増やし、闇を力無く灯し始めた。

薪が音を立て、火の粉を舞い上げると共に、煙が高く昇っていく。

林の向こうからは、人々の笑い声が潮風に乗って流れてきた。




 一つの小さな火の粉が消える事なく空へ舞った時、風がふわりとそれを握った。

ふと、高く昇る煙が女王の顔を薄く描いては一番星に重なり、彼らを見下ろすとそっと消える。




 その真下で、黒い影が潤んだ目で彼らを眺めていた。

不安と躊躇に震える微かな息遣いはやがて、そこに落ちる月の画を、連なる鋭利な銀の光に歪ませては、海底に引き返した。




挿絵(By みてみん)






― 完 ―







大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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― 新着の感想 ―
[一言] お疲れ様でした。 銃火器や機械が出たかと思えば魔女とかドラゴンといったSFとファンタジー要素のミックスされた作品でした。 後半からずっとドキドキハラハラの展開でしたね! 中盤の彼が砂にされ…
[良い点] 感動しているんだが。 [気になる点] 少し寂しくなるよ。癒しが無くなるw [一言] 登場人物達の心情や状況描写がしっかりしており、読みやすさもさる事ながら、美しささえ感じる。 この感動…
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