(5)
守護神の竜が海を旋回し、岸辺まで来ると翼をはためかせる。
人々は風圧に体が押しつぶされそうになるのを、何とか踏ん張りながら目を伏せる。
その後、竜が着水すると、遥か遠くからリヴィアが飛行して接近する。
彼女の眩し過ぎる姿といい、現れた竜といい、頭の整理が追いつかない人々は身を竦めてしまう。
四人がリヴィアを振り返った背後に、先着していた従者達が宙に並んだ。
竜の使者達の姿はどうしたのかと、四人は宙を探し回る。
その時、甲高い騒ぎ声が、点々と並ぶ家の間から聞こえてきた。
小さな子ども達が使者達を面白がり、その足先に飛び付いて引っ張ろうとしている。
「見て!」
シェナは空を指差した。
林の木々が生い茂り、見た事のない鳥の群が飛んでいる。
それだけでなく、離れた先の岸には流木や、見覚えのある瓦礫までもが大量に引き上げられ、並ぶ家々の竿には複数の布が掛かり、柔らかく靡いた。
「これは……」
長老がアリーに支えられながらようやく外に出ると、それを捉えたリヴィアが眼光を優しく彼に放った。
二人はつい目を伏せると、長老の握っていた杖が砂に音もなく倒れる。
長老は薄目を開くと、杖から離れた手を開閉させながらまじまじと見つめた。
足に力が入り、体に真っ直ぐな軸を感じる。
自分の力だけで、地面を踏ん張っている感覚がする。
若かりし頃のそれを噛み締め、ただただ嬉しくなった。
リヴィアが左手を真横に振ると、従者達が大海原を旋回して遠くに飛翔し、小さくなっていく。
「どこ行くの?」
フィオの声に皆も目で追うところ、リヴィアが着地し、足早にやって来た。
四人の近くにいた人々は、見るからに輝かしい異質の者に驚き、あとずさる。
「手を出して」
霧のようにぼやけた優しい声をする彼女は、どこか楽しそうな微笑みを浮かべていた。
一体何かと、四人は掌をおもむろに差し出す。
宙を旋回して戻った従者達が、人々の頭上に突如、白砂をふわりと降らせた。
「……何?」
「砂……?」
漁師達や他の島の者達も、何気なく手を広げてそれを見つめ、掌で感触を確かめる。
「握って」
リヴィアに言われるがまま、皆はその手を強く握った次の瞬間――ジリジリと小さな振動を帯びると熱が込み上げ、静電気のような軽い痛みを感じ、手を振り解いてしまった。
何事かと皆が一斉に手を振り払っていると、握っていた砂は生きた糸のように宙を駆け、波打ち際に向かう。
リヴィアはそれを見届けながら眼光を増幅させると、自分が握っていた砂に勢いよく息を吹きかけて飛ばした。
四人の目の前に突如、旋風が巻き起こる。
皆の掌から解放された砂が螺旋に舞い始めた。
それは徐々に砂山を築き、やがて丸く、時に角ばった立体を仕上げていくと――
「あ……」
ビクターの目が震えた。
そこに現れたのは、四つん這いの姿勢で俯いたグリフィンだった。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します