(4)
刹那、水平線に白い閃光が走ると、島に向かって一気に迸る。
眩し過ぎて目が眩み、人々は目を大きく伏せた。
空を覆っていた灰色の厚い雲は、白光を上げる水平線に向かって吸収されるように流れ始める。
みるみる雲が吸い込まれる時、幾つもの陽光が射し始めると同時に高波が勢いよく立ち上がった。
そのしぶきは雨に代わって、煌びやかな光に降り注ぐ。
一変した状況に、誰もが瞼も声も失う。
その途端、聞いた事もない音が長く轟いた。
低くて太いそれは、生物のものか。
島やその周辺を覆い尽くすように、地面までも揺らす。
人々が海に目を凝らすと、現れたのは空島の従者達と竜の使者達。
そして、巨大な守護神の竜だ。
それぞれが青い眼光を放ちながら島の上空を旋回し、更なる陽光を生み出していく。
戻ってきた温かい空に、人々の悲鳴はあっと言う間に掻き消された。
しぶきは瞬く星のようで、人々は目も心も奪われていく。
外の事態に長老が寝床から出ると、アリーと共に震えながら釘付けになる。
荒れ狂う天気が払拭され、竜が放つ鋭い眼光が陽光と共に島を包んだ。
目を覆う最中、傷や苦痛がみるみる拭われていく。
人々は元の健全だった時の感覚を取り戻し、体が軽くなるあまり自然と動いてしまう。
一変する周囲と上空を何度も見渡し、感嘆が止まらない。
そして高波が再び起こると、しぶきを激しく上げながら水面が盛り上がり始めた。
そのまま岸辺に水のアーチが出来上がると、穴が出現する。
皆が一斉にそこに目を向けると、四人が激しくそこから投げ出されるように飛び出すと、砂浜を雑に転がった。
ビクターが尾骨に走る痛みを上げる横で、フィオは口に入った砂を必死に吐き出し、咽る。
全身砂まみれに悶えるシェナに、傍にあった岩に派手に頭から激突したジェドが堪らず声を上げた。
「お……おま……」
レックスが震えながら、海から現れた四人に思わず呟く。
しかしカイルは、未だ幻覚だと疑いマージェスに飛びついた。
「助けてくれ! 死にたくねぇ!」
騒ぐカイルの背中に、グレンが声を失うまま手を置き、信じられない状況に唖然とする。
気温はすっかり上がり、陽光を受けた砂浜は温かくなる。
そこにはもう、空島で見た不思議な光もなければ、すぐに体が乾く事もない。
顔を伝う水は辛い。
鼻腔を擽る海の香りに、一面が真っ青でも透明でもなくなった景色。
緑の林が風に揺れ、岸辺を登った先には、一驚を上げながらこちらを見つめる家族の皆。
互いがどんなに目を擦っても、その存在は消えなかった。
「帰って来た……」
信じられない。
よろよろと立ち上がる四人の口から漏れた、小さな一言。
目はたちまち潤んでいく。
そんな姿に真っ先に漁師達が飛びつき、抱きしめた。
島中は、感激する声と感涙に満ちていく。
そこへ、あの太くて低い、守護神の長い咆哮が再び轟いた。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します