(3)
陽が射さない為に、水が作れない。
雨水こそ集められても、生活に必要な飲み水はまだまだ足りない。
火が起こしにくい原因から、海水蒸留も追いつかなくなっていた。
小さな子ども達は体力も抵抗力も弱い故に、身を震わせながら、ぐったりと横たわってしまっている。
荒れる天気と共になだれ込む苦痛や悲惨、焦燥感に、やり場のない怒り。
島に缶詰め状態を食らい、その地獄は体力と精神力を奪い続けた。
その時
「いい加減にしてっ……」
怒りに震えるアリーの声に、漁師達が僅かに振り返る。
「あの子達の居場所は、どこなの……ここではないの……」
上体を起こしたままの長老は、手の中に顔を埋めたまま石のようになっている。
「私達はあの子達の居場所よ!?
こんな事で、迎え入れらるの!?」
彼女はそう言って、バケツに入った水を乱暴に床に置いて見せた。
少ない、貴重な水だというのに、この場に集まっている者達を気にかけ、他の仲間が届けたものだ。
「干からびてる場合じゃないのよ!
こうしてる間にもし、戦っているとしたら!?
帰ろうと必死になっているとしたら!?」
見た事も聞いた事もない彼女の憤りと険しい表情に、漁師達は目を見開いていく。
「このままじゃ親としてでなく、ここに生きる人間として失格よ!
私達の生き残りの執着心は、生き様はこの程度なの!?」
彼女は怒りに任せ、宙を手で乱暴に切った。
それが視界を過った時、マージェスは乱暴に立ち上がる。
息は随分、荒くなっていた。
彼女の言葉が全身に犇めいている。
このままでは皆、確実に死ぬ。
唯一、元漁港勤めの生き残り。
現状の判断でいいのか。
経験上の判断よりも、あの子達の一人の親として、守る者としての判断はこれで正しいのかと、思考を巡らせる。
どうせ死ぬならそれこそ、最期まで懸命でありたい。
本当に、あの子達を迎えには行けないのだろうか。
耳を疑うような島、空島に助けには行けないのだろうか。
雨風の音が突如、昔の記憶を呼び起こす。
正気を失った父親に守られるように抱かれた、生後間もなかったジェド。
あっけらかんな顔で自分達に向かって来たビクター。
冷たくなった父親の腕の中で泣いていた、赤ん坊のフィオ。
ある嵐の夜に流れ着いた板の上で、瀕死状態だったシェナ。
四人の命もまた、奇跡。
自分達には、命に代えてでもあの子達を守り抜く使命がある。
マージェスは反射的に外へ向かった。
消えた西の島のように、ここは豹変してしまっている。
飛び出した先で棒立ちするレックスを前に、ふと顔を上げた。
何故か、海の遥か遠くが明るく見える。
「……終わり……か」
美しい水平線がこちらに迫るようだ。
とうとう、見えてはならないものが見えてしまったような気がした。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します