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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
最終話 定め 
127/133

(3)




 陽が射さない為に、水が作れない。

雨水こそ集められても、生活に必要な飲み水はまだまだ足りない。

火が起こしにくい原因から、海水蒸留も追いつかなくなっていた。

小さな子ども達は体力も抵抗力も弱い故に、身を震わせながら、ぐったりと横たわってしまっている。




 荒れる天気と共になだれ込む苦痛や悲惨、焦燥感に、やり場のない怒り。

島に缶詰め状態を食らい、その地獄は体力と精神力を奪い続けた。

その時






 「いい加減にしてっ……」




怒りに震えるアリーの声に、漁師達が僅かに振り返る。




「あの子達の居場所は、どこなの……ここではないの……」




上体を起こしたままの長老は、手の中に顔を埋めたまま石のようになっている。




「私達はあの子達の居場所よ!?

こんな事で、迎え入れらるの!?」




彼女はそう言って、バケツに入った水を乱暴に床に置いて見せた。

少ない、貴重な水だというのに、この場に集まっている者達を気にかけ、他の仲間が届けたものだ。




「干からびてる場合じゃないのよ!

こうしてる間にもし、戦っているとしたら!?

帰ろうと必死になっているとしたら!?」




見た事も聞いた事もない彼女の憤りと険しい表情に、漁師達は目を見開いていく。




「このままじゃ親としてでなく、ここに生きる人間として失格よ!

私達の生き残りの執着心は、生き様はこの程度なの!?」




彼女は怒りに任せ、宙を手で乱暴に切った。

それが視界を過った時、マージェスは乱暴に立ち上がる。

息は随分、荒くなっていた。






 彼女の言葉が全身に犇めいている。

このままでは皆、確実に死ぬ。

唯一、元漁港勤めの生き残り。

現状の判断でいいのか。

経験上の判断よりも、あの子達の一人の親として、守る者としての判断はこれで正しいのかと、思考を巡らせる。




 どうせ死ぬならそれこそ、最期まで懸命でありたい。

本当に、あの子達を迎えには行けないのだろうか。

耳を疑うような島、空島に助けには行けないのだろうか。




 雨風の音が突如、昔の記憶を呼び起こす。

正気を失った父親に守られるように抱かれた、生後間もなかったジェド。

あっけらかんな顔で自分達に向かって来たビクター。

冷たくなった父親の腕の中で泣いていた、赤ん坊のフィオ。

ある嵐の夜に流れ着いた板の上で、瀕死状態だったシェナ。

四人の命もまた、奇跡。

自分達には、命に代えてでもあの子達を守り抜く使命がある。






 マージェスは反射的に外へ向かった。

消えた西の島のように、ここは豹変してしまっている。

飛び出した先で棒立ちするレックスを前に、ふと顔を上げた。

何故か、海の遥か遠くが明るく見える。




「……終わり……か」




美しい水平線がこちらに迫るようだ。

とうとう、見えてはならないものが見えてしまったような気がした。









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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