(2)
もう二度と、大切な人を失う事だけは勘弁だ。
そう思って、知恵を絞りに絞ってここまで生きてきたというのに。
ますます闇に落ちるカイルは、とうとう身を預けていたテーブルを激しく突き飛ばすと、椅子が転倒する。
アリーとマージェスが肩を飛び上がらせると、カイルは眩暈がする中、足取り悪くグレンの背中に倒れるように近付いた。
「雷だろ……落ちるまで待ってりゃいい……
船出せ……行くぞ……」
「おい!」
レックスの声に、カイルが鋭利な目を向けた。
その態度にとうとう頭にきたレックスは、突如、カイルの胸倉を掴んで床に突き飛ばす。
周囲が止める声もよそに、彼もまた焦燥をぶつけ始めた。
「船なんかねぇんだよちゃんと聞いてろっ……」
震える声は、更に全身を震わせている。
開いたままのドアから雨風が吹き込み、肌を伝うのは汗か涙か分からない。
「勝手に全部背負いやがって……
これだからレスキュー隊員はよう……
こんな僻地でヒーロー気取りも大概にしろクソったれ……」
「止めろレックス!」
マージェスは怒号を飛ばす。
しかし、カイルは何も言い返せなかった。
そんな力もなく、こんな心境から、彼の言う通りなのかもしれないとすら思ってしまう。
寝そべったまま、嵩張る激痛と眩暈に目を覆った。
完璧な八つ当たりだろう。
レックスは壁を一発殴り、涙と悔いを呑む。
知らなかった。自分がこうして涙を流しそうになるなんて。
そもそもこんな島で、ことごとく不便過ぎるサバイバル生活を送る事にストレスしかない。
船を出して海賊みたいな生活を送る羽目になると、一体誰が想像できただろう。
乗りたかったのは船ではなく、自分が製造した自動車だ。
あの時、やっと雇用が叶った工場が、轟々と燃え盛る炎に包まれた。
その光景に自分を見失った。
喧嘩っ早かっただけの自分を受け入れてくれた懐の広い人達は、目の前で瞬く間に瓦礫と炎に掻き消されていった。
なのに、こんな価値のない自分は生き残っている。
それでも、価値がないと思っていても、生存した事に意味があると奮い立たせてきた。
相手はこんな世界だ。
そうやって生きていく他はないだろう。
失った命の為にも、この島を、いずれはまだ見ぬ他の地も見つけて開拓し、復興を目指して人生を全うしてやる。
そう皆で、最大限力を合わせてやってきたのに。
しけた空気に苛立ちは込み上げる一方だ。
レックスは力無い足取りで、荒れる外にふらふらと出る。
強い雨脚と冷風は一瞬にして体を濡らしてしまう。
遠雷が腹立たしい。
さっさとあの時のような雷を放てばいいものを。
レックスは遥か遠い雷雲に、鋭い睨みを利かせた。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します