(1)
島を打ち付ける豪雨は、人々の心情をそのまま描いたようだった。
一瞬の晴れ間から打って変わり、荒天は見事にあの子達を連れ去ってくれた。
その後嵐は止んだとて、今、再びこの酷な状況に身を晒されている。
昼なのか、夜なのか。
最早、世界は時までもを失おうというのか。
薄暗く、火の怒りは静まり返り、部屋や島の色はみるみる流れ落ちていく。
長老は、グリフィンと四人が消えてから睡眠も食事もままならず、とうとう歩行困難に陥った。
グレンが拳を激しくテーブルに打ち付け、焦燥に一点を見つめる。
何も出来ずにいる中、寒さに震えて立っているだけだ。
何が命に代えてでも、だ。
口だけだった自分に更なる嫌気が差す。
「座れ……」
マージェスは彼を促すものの、同じく、感情を抑えるのがやっとだ。
恰幅がよかった体はやつれている。
それは、彼だけではなかった。
最悪の天候の影響で食料がまともに確保できず、このままでは備えが底を突く。
横では、負傷した額に布を巻いたカイルが、身動きなく突っ伏していた。
目が覚めたら島にいたが、起きてしまった事態を耳にするなり、頭が真っ白になった。
そして未だに、まともな視界を保てていない。
脳裏で見え隠れする消失したグリフィンと四人に、肌を撫でる冷た過ぎたあの時の海の感触に、恐怖が揺さぶり吐き気を催し続ける。
「もういい俺は行く……待ってろ……」
部屋を飛び出そうとするグレンをレックスが止めるが、その腕は大きく振り解かれ、乱暴にドアが開く。
「行くなっ!」
掠れた声が雨音を上回る。
上体をどうにか起こすも激しく咽る長老に、アリーが背中を擦る。
「行くなっ……」
咳に混じる声にグレンが両手に顔を激しく突っ伏し、髪を今にも毟りそうになる。
こんなに何もできない事はないだろう。
あの、当然のように生きてきた地上を失った瞬間と同様に、手段を導き出せず途方に暮れる。
これまで幾度となく、死んだ方がマシだと思ってきた。
何もかも失われた地球に取り残されたが、いつだったか、自分達は奇跡の集団だ、などと美しい事をほざいて切り抜けもした。
だが実際、この島に有り付き、腰を据え、新たな人生を一から歩むという事が果たしてどこまでありがたい事なのか。
未だに苦しい上に、今度は理解不能な現象が人生の邪魔をしている。
カイルがやっと顔を上げ、疼く額に手を当てる。
虚ろな目には、ドアの柱に背を預けて小さく震えるグレンが映る。
彼がそんな姿をし、情けないなどと思う必要など決してない。
今ここで、一番使い物にならないのは自分だ。
騒がしい、だけど愛しいあの子達に自分は一体、何を言っただろう。
今の自分はまた、誰も守れていない。
あの時、決めたのに。
仕事後に勃発した大惨事。
散々他の命を救ってきた実績がありながら、家族を助けられなかったどころか傍に辿り着く事すらできなかった。
自分一人で生きていく事など想像つかず、その後を追おうとしていたところを、今ここにいる仲間が必死に引き止めてくれた。
大海の冒険者~空島の伝説~
LEGEND(伝説)シリーズ3部作の内の1作
本作連載終了後に投稿する作品紹介(LEGENDシリーズのみ告知)
※変更の可能性あり。
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ 最終作
※2作に渡って終幕します。特殊な眼力を持つ鏡の人魚(作中:ミラーマーメイド)界での異変から繋がる、本シリーズ主人公の4人が引く血と力の秘密と結末を公開。