(12)
やがて遠雷がし始めると、稲光が雲を這い、四人は身を竦める。
リヴィアは湖に向かい、右手で宙を大きく真横に切った。
水面に垂直に落雷が起きた途端、稲光がそこに迸り、追いかけるように雷鳴が轟く。
しぶきが高々と上がると、湖一面に海が映し出された。
その画は溶けるように徐々に両脇に寄せられ、水面に巨大な穴が出現する。
真っ暗なその先に湖が激流し、奥へ吸い込まれていく。
四人は察した。
「リヴィア待って」
しかしもう、彼女はフィオの声に耳を傾ける事はせず浮上する。
「まだ聞きてぇ事がある!」
「もっと見物させろよ!」
ジェドとビクターが追い求めるように放つが、竜の使者達が四人の背後に回ると、出現した穴へ押し込むように羽ばたいた。
その風圧は強過ぎて、一切の抵抗もきかない。
「待ってってば! 急に嫌だよ!」
シェナが半ば泣き顔をしながら叫ぶも、リヴィアは静かに首を右に振る。
従者達が勢力を上げて穴の中に姿を消すと、そこから更に四人を引く力が加わった。
美しさを取り戻した、青く光り輝く空島。
遠ざかる、大きな存在。
もう少しだけ共に過ごせないだろうか。
ここの事をまだ、何も知らないではないか。
しかし、彼女は容赦ない。
使者達の背後から放つ守護神の風が、追い打ちをかけた。
「リヴィア!」
それを最後に、四人の叫び声が激流の向こうに吹き飛ぶ。
その後を、守護神が大きく羽ばたいては身を窄め、後を追った。
リヴィアは寂寥を浮かべたまま、しばらくその入り口を眺める。
湖が激しく向こうの世界へ流れる音が、頭で轟々と鳴り響く。
どこか分からない一点を見つめていると、肌を打つしぶきが、消えたあらゆる声を蘇らせた。
平穏な声から血に溺れる声。
呪いの声の後に訪れた、人間の勇ましい声。
それにより辿り着いた、歌声。
そして最後は、何気ないあの言葉が再び心に灯る。
信念を形作るその言葉の雫は、記憶に緩やかな波紋を広げ、消えた。
嬉しさに目が潤むと同時に悲しく、また、酷く寂しい。
リヴィアは複雑な感情を押し殺すと、ようやく微笑み、向こうへ飛び込んだ。
小さく、遥か彼方へ遠ざかる青い世界と白銀の光。
狭い闇の通路はみるみる四人を包み、まだ離れたくない気持ちを、激流が引き千切ろうと強く引き続けた。
落下速度が増し、足元から冷たい水と泡が肌を這うと、宙で弾けては消える。
いよいよ全身に淡い金の光が灯りだすと、上昇するあの時が蘇る。
喉や鼻が苦しく、目には痛みを感じた。
その感覚が、実に懐かしかった。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します