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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第九話 再生 
124/133

(12)




 やがて遠雷がし始めると、稲光が雲を這い、四人は身を竦める。

リヴィアは湖に向かい、右手で宙を大きく真横に切った。

水面に垂直に落雷が起きた途端、稲光がそこに迸り、追いかけるように雷鳴が轟く。

しぶきが高々と上がると、湖一面に海が映し出された。

その画は溶けるように徐々に両脇に寄せられ、水面に巨大な穴が出現する。

真っ暗なその先に湖が激流し、奥へ吸い込まれていく。

四人は察した。




「リヴィア待って」




しかしもう、彼女はフィオの声に耳を傾ける事はせず浮上する。




「まだ聞きてぇ事がある!」



「もっと見物させろよ!」




ジェドとビクターが追い求めるように放つが、竜の使者達が四人の背後に回ると、出現した穴へ押し込むように羽ばたいた。

その風圧は強過ぎて、一切の抵抗もきかない。




「待ってってば! 急に嫌だよ!」




シェナが半ば泣き顔をしながら叫ぶも、リヴィアは静かに首を右に振る。

従者達が勢力を上げて穴の中に姿を消すと、そこから更に四人を引く力が加わった。




 美しさを取り戻した、青く光り輝く空島。

遠ざかる、大きな存在。

もう少しだけ共に過ごせないだろうか。

ここの事をまだ、何も知らないではないか。




 しかし、彼女は容赦ない。

使者達の背後から放つ守護神の風が、追い打ちをかけた。




「リヴィア!」




それを最後に、四人の叫び声が激流の向こうに吹き飛ぶ。

その後を、守護神が大きく羽ばたいては身を窄め、後を追った。






 リヴィアは寂寥を浮かべたまま、しばらくその入り口を眺める。

湖が激しく向こうの世界へ流れる音が、頭で轟々と鳴り響く。

どこか分からない一点を見つめていると、肌を打つしぶきが、消えたあらゆる声を蘇らせた。




 平穏な声から血に溺れる声。

呪いの声の後に訪れた、人間の勇ましい声。

それにより辿り着いた、歌声。

そして最後は、何気ないあの言葉が再び心に灯る。

信念を形作るその言葉の雫は、記憶に緩やかな波紋を広げ、消えた。




 嬉しさに目が潤むと同時に悲しく、また、酷く寂しい。

リヴィアは複雑な感情を押し殺すと、ようやく微笑み、向こうへ飛び込んだ。






挿絵(By みてみん)




 小さく、遥か彼方へ遠ざかる青い世界と白銀の光。

狭い闇の通路はみるみる四人を包み、まだ離れたくない気持ちを、激流が引き千切ろうと強く引き続けた。




 落下速度が増し、足元から冷たい水と泡が肌を這うと、宙で弾けては消える。

いよいよ全身に淡い金の光が灯りだすと、上昇するあの時が蘇る。

喉や鼻が苦しく、目には痛みを感じた。

その感覚が、実に懐かしかった。









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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