(5)
魔女は、気配もなく再現した竜の精霊達に怯む。
竜の魔力により復活した空の神々は、徐々に眼光を鋭く灯すと威嚇し始めた。
武器の手に力が込められると、構えは更に定まり、攻撃態勢に入る。
見渡せば、黒の呪いに覆われていた空島が、みるみる青い生気を取り戻し始めているではないか。
「貴様っ……!」
「迂闊だったな贋物よ」
女王は全身から煌々と青白い光を放ちながら魔女を見据えると、脇腹に手を入れる。
抜き出された銀の光が這う斧は、雲から射す陽光を鋭く反射させた。
しかし魔女は口角を上げ、狂気に満ちた目で女王を睨みつける。
「これは我らのものだ!
歪なこの人間共で今度こそ、人類を破滅に追い込んでやる!
貴様らのような邪魔者も含め、全てなぁ!」
陽光はみるみる太くなり、その場に柔らかく射し込むと、魔女の肌を焼いていく。
全身から細い白煙を上げる姿は、いつまでも焦燥感に溢れる表情で怒り狂う。
「お前は欲に駆られ過ぎた……もう眠れ……」
女王は暫し魔女を見据えた後、小さく従者に頷く。
従者全員が、武器を片手に魔女を押さえ付けた。
空にかかる厚い灰色の雲は、滞る事のない強い風に払拭されていく。
失神した四人を縛り上げる荊が地面に戻る傍ら、陽光に炙られる魔女の呻き声は止まらない。
女王は眼光を柔らかく灯すと、縛られた四人を見た。
そこへ突如、四頭の小柄な竜の使者が宙を旋回して着地し、四人の荊を噛み砕いていく。
押さえ付けられた魔女の前に女王が着地した。
魔女は従者達に武器を向けられ、押さえ込まれる中、ありったけの憎しみを込めて睨め上げている。
その時、魔女の眼光が赤に灯ると、全身が淡い紫の光で象られた。
そこへ、これまで耳にした事のない低い嘲笑に、竜の精霊達が焦りを見せる。
魔女ではない者の声に素早く警戒した。
女王は目を尖らせ、手にする斧の刃を魔女の首元へ突き付ける。
「貴様も惨たらしいもんだな……」
地面に押し付けられるまま、声の者は切り出した。
「欲の為ならば血の争いを起こし、命までも絶つ……地球の為、未来の為とほざきながら、人間は……
それでいて滑稽な出来に嫌気が差す……愚鈍でつまらん……故に、派手に、徹底的に我が呪いを投じてやったというのに、あの忌々しい黒の陽炎は抑制しよってっ……!」
一体全体この者はどこから喋っているのかと、精霊達は戸惑いを隠せない。
その者の上体が僅かに上がると、赤の眼光を強めながら苛立ちを浮き立たせた。
「成果は歪んだ!何とも煩わしい!
だが今回ばかりは愉快だ!
この残る混沌共を使い、その機会は再び訪れる!」
最後に笑い飛ばす声の者に、女王は憐れみの表情を浮かべる。
「その歪んだ渇望故に惨烈は生まれる一方……」
青い目を半ば閉じ、悲し気に呟くと、斧で魔女の下顎に触れた。
黒い血はそのまま、細く刃を這う。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します