(4)
「飽きちまったわ!」
魔女は、接近していたビクターの右腕に回し蹴りを食らわせ、体勢を立て直すと迫りくるフィオの顔を殴り飛ばす。
四人がすっかり立てなくなると、魔女は一息吐いた。
「……馬鹿馬鹿しい」
手に戻った杖が再び床を叩くと、底から伸びた蔓はとうとう四人の足、胴体、肩へと巻き付いて引き上げ、羽交い絞めにした。
瞬時に棘が生えて荊と化し、鋭い刺激に皆の悲鳴が上がる。
「こりゃあいつか見た光景だねぇ、数が多いと見ものだよ!
見せてやりたいもんだ……何だ……ああ!
バズるだのというやつだろう!」
足元のライフルは無惨に蹴り飛ばされ、湖へ呆気なく消えた。
「愚劣極まりない表現もこの場に置きゃ少しは光るのか……」
「このっ……化け物っ……!」
フィオは肌にめり込む棘に耐えながら声を絞り出す。
しかし魔女は腹を抱え、心底揶揄った。
「このクソ蛇がっ……消えろっ!」
ジェドが憎しみを放つ中、血が肌に細く伝う。
「御託並べてんなっ……!
もうっ……勝負はついっ――」
ビクターの腹から鈍い音がし、発言を絶たれた。
「哀れなクソ餓鬼。だがその執着は嫌いじゃない」
魔女は拳を握りながらじりじりと捻りを加える。
荊の締め付けと太さが増すと四人の苦痛が大きく漏れ、意識がより遠のいていく。
未だ手にしていた武器が力無く滑り落ち、地面に乾いた音を立てた。
「おやおや遂にお空の神様はあんた達を見捨てたかい!」
魔女の鋭利な目は天から、空気を求めて肩を荒く上下させる四人に向く。
そしてもう片方の掌を下向きに開き、ゆっくりと窄めていった。
荊が軋み始めると、拘束をより一層強めて根元を揺らしては、徐々に浮かび始めるではないか。
「折角だ。このまま連れ帰って傑作にしてやるよ!」
自分だけの声に満ちたこの場で、四人に巻き付いたまま浮上し始める荊を前に、高々と哄笑を浴びせたその時――
「その前に貴様を祓ってやろう」
魔女は目を見開き、焦ると咄嗟に頭上を仰ぐ。
続く、鋼の音。
五人の従者が、銀の刃、矛先、矢を一斉に向けながら睥睨していた。
群青色の目に純白の肌。
纏う衣は銀と白の光を泳がせる。
時に足元から、銀の装飾の輝きが垣間見えた。
白銀の髪を持つ彼らの容姿は、長髪や短髪、編み込んだ髪や一束に結い上げられた髪と様々だ。
細かな輝きを散らし、鋭く光る銀の髪留めには、竜の目を思わせる群青色の石が埋められている。
重なるパール色をした衣は、回復の湖の如く透き通り、その輪郭は大気に溶けるようにぼやけていた。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します