(1)
灰色と化した空島に聳え立つ、最上階から天辺を完全に失った竜の精霊の塔。
数々の破壊音が辺りに鳴り響く中、突如として真っ直ぐに強調された咆哮に、魔女は耳を疑う。
そこらに目を這わす様子は、明らかに焦っていた。
その時、端の球体型鉄格子から太い黒の稲光が乱雑に放たれた。
宙を切り裂くような白黒の雷光を見せながら弾ける電流音。
魔女はじわじわと狂気の笑みを浮かばせ、構築されていく新たな力に目を奪われていく。
強引に合わせられたジェドとリヴィアの血が、黒い稲光を放つ白い光の球体を生み出した。
不気味なそれは緩やかに浮かび上がり、いよいよ生物を滅亡に導こうとし始める。
魔女は炎の如く目を光らせ、哄笑を上げたその時――鋭利な白銀の光が崩れかかる塔の縁から出現し、その場を明々と照らした。
光の向こうには、銀に輝く鱗が美しい列を成し、そこからの反射光が川のような流れを滑らかに見せる。
増幅する射光が目を突き刺すようで、その場にいる皆は大きく顔を伏せた。
力強い風圧と共に浮上したのは、巨大な翼をはためかせる竜。
嘗てない勢力で飛躍したそこに、シェナが乗っていた。
青い眼光を放つ白銀の姿はまるで、これ以上の攻撃を赦すまいと精悍な様を晒している。
魔女は予期せぬ最悪の事態に激しい身震いした。
赤の眼光を火の如く揺らせると、蛇の牙を剥きながら毛を逆立てる。
焦燥に大きく杖を振り翳し、威嚇の声を竜に放った。
そこへ透かさず、青い炎が太く轟々と吹き荒れる。
熱波はフィオとビクターの頭上を過り、炎は魔女に激しく纏わりつく。
そのまま残る塔の壁は一挙に破壊された。
青い火柱になる魔女の悲鳴は、燃え盛るそれにみるみる掻き消されていく。
また、球体型鉄格子も包んだ炎は、辺りに這わされた管と鉄格子の連結を瞬時に焼き尽くした。
更に、その上に浮かんでいた白黒の稲光を纏う光の球体は、風に柔らかく払拭される。
ビクターとフィオは、圧しかかるガラクタを押し上げ、塔の外側を見た。
羽ばたき、宙に留まる巨大な竜は、見違えるほどに美しい姿を取り戻している。
そして
「シェナ!」
二人は負傷している事も忘れるほど、喜びに叫ぶ。
見るに堪えない喉をしたままの彼女は、竜の頭上で声もなく笑うと親指を立てた。
竜が二人に顔を寄せると、シェナが鼻筋を滑り下りる。
そして、青い火柱に包まれて唸る魔女を横に、黒煙を上げる鉄格子に急いだ。
そこでは、ジェドとリヴィアが俯せに倒れている。
辺りは青の血で汚れ、皆の背筋が凍りついた。
「おい……」
「嘘……嘘うそっ!」
皆は鉄格子に攀じ登り、ジェドとリヴィアを激しく揺さぶりながら何度も名を呼び続けた。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します