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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第八話 侵入 
112/133

(21)




 暗い空間を落石が襲い、立ち込める砂煙に視界が奪われていく。

揺れる地面に体のバランスを乱されながら、次の行動に戸惑うフィオとビクター。




 一方、魔女に薙ぎ払われたジェドが薄目を開く。

襲う閉鎖感とただならぬ空気の中、顔を上げたそこに半眼のまま動かないリヴィアがいた。

慌てて彼女の肩を掴み、脳内で雑に散らばる思考や、心の乱れを整えようとする。

彼女の顔に僅かに残る口元と、力尽きて垂れた右手は未だ、本来の白い肌を残していた。

呪いに抗い、懸命に己を維持しているのではないか。




 しかし、左半身は岩肌の腕によりローブが割け、指先の形すら認識できなくなっていた。

彼女の体の大半は、岩になりつつあった。




「リヴィア立て! 起きろ!」




ジェドは彼女を揺さぶるが、鉄格子は振動と共に青白い電流の光を徐々に上げ始めてしまう。

体勢が全く崩れない彼女を見て気付いたジェドは背中を覗き込むと、突き刺さる幾つもの管に恐慌をきたし、震える。

そして反射的に、我武者羅にそれらを引き抜こうとしていた。




 「貴様の破壊力を見せてみろ、獣がぁ!」




張り上げられた魔女の声と共に杖の輪郭が紫に灯ると、白光する板が据え付けられていた装置が叩かれた。

その反動で、二種類のハンドルが激しく傾く。

機材全体に青白い電流が迸ると、再び板に白の点滅が蘇る。

この反応が見せる異変に、三人は戸惑った。




 鉄格子の天辺から側面に沿って剥がれるように出現したのは、人間の腕の動きに似た二本の太い鉄管。

よくしなり、自由自在に動くそれらは、槍の如く尖った先端を光らせて中の二人に向いた。

ジェドは怯み、焦りに全身がより震え上がる。

塔の揺れは更に増し、落石も止まらない。




「リヴィア起きてくれ! 頼む!」




 困惑するジェドを、魔女はただただ笑い飛ばした。

その隙を狙ったビクターが、背後からライフルのストックで魔女の横面を殴打する。

魔女は大きくよろめくも、吊り上がる口元から牙を光らせ、間髪入れず彼の腹を殴り飛ばした。

負傷している彼の攻撃は弱く、魔女には何の効果もなかった。




 ビクターは石が積もる地面に大きく跳ねながら横転し、身を縮めて呼吸に苦しむ。

フィオが彼の名を叫ぶも、矢の傷による激痛で思うように戦えない。




 鉄格子の中で、ジェドはひたすらリヴィアの背中に減り込む管を抜こうとするも、抜けない。

いよいよ、左右から向けられていた鉄の腕の先端が青白く放電し始めると、無鉄砲に鉄格子に衝撃を与え、揺さぶる。

その衝撃で遂に、電流が彼女の背後の管を這ってジェドに伝わり、彼は声を上げる間もなく膝から崩れて横転し、フィオとビクターの視界から消えた。




 ジェドとリヴィアを這って出た電流が、壁の至るところに亀裂を生む。

やがて塔が大きく傾くと、壁と天辺が崩落し始めた。

閉鎖的だったこの場に灰色の空が露わになり、凍てつく強風が吹き荒れる。




 フィオは跳び下りてしまったシェナと、鉄格子の暴走に混迷して泣き立つ。

そんな彼女にビクターがようやく追いつくと、そのまま覆い被さり、激しく伏せた。




 鉄格子の中から火花が幾多も弾ける。

地面に伏せるのがやっとの二人は、目も開けられない中で叫んだ。

しかし、周囲の残酷な音にあっさりと掻き消されてしまう。




 腹の底から甲高い嘲笑を上げ、破滅の材料の成れの果てを期待する魔女。

フィオとビクターが地獄の敗北感に陥ったその時――太い、一筋の長い咆哮が、塔の真下から轟いた。









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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