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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第八話 侵入 
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(20)




 「失くすな!」




ジェドがシェナに放つや否や、魔女に鉄格子へ薙ぎ払われ、中のリヴィアに衝突した。

フィオとビクターの叫び声は、魔女の濁声に掻き消される。




「それがないから何だ! 代替はいくらでもある!」




 魔女の嘲笑と共に、辺りの装置が塔を揺らした。

足元から白光を上げ始めた時、ビクターが怒りに身を任せ、端で興奮しながら騒ぎ立てる敵の裾を引っ張り、横転させた。

透かさずライフルをその口に捻じ込むと発砲し、そのまま杖を突くように体を支え、ようやく立ち上がる。




 フィオが涙目で魔女を睨み、引き抜かれ落ちていた矢を拾って投げつけた。

しかし魔女は見向きもしないまま、それを呆気なく払い除ける。




「シェナ来て!」




フィオは足を引きずりながら、窓に上った彼女に両腕を広げる。

だがシェナは何も言わず、体を外に向けてしまう。

何をしようというのかと、ビクターは胸がざわついた。




「止めろシェナ!」




シェナは無言のまま、傍で動揺する二人に肩越しに微笑んだ。

大きく見開かれた、怯えながらも何かを決心した眼差し。

彼女は一つ頷くと、跳び下りた。






 フィオの叫び声が遥か彼方に遠ざかる中、手足を宙に激しくバタつかせる。

光を手放すまいと、固く握っていた。

取り出されたこれを、魔女は相当欲しがっていた。

それにあの時、リヴィアは言っていた。




 “特殊な血や魔力と……己の魔力を併合させる事で生まれる新たな力は……欲望のままに扱える……”




 ならば――




 ふと、一か八かに賭ける恐怖に涙が滲む。

その一粒一粒が、思い出を浮かび上がらせた。

下から上に全身を這う風に、その日々が乗せられて消えていく。




 いつか、声が出せず話せなかった。

見知らぬ島に流れ着き、見知らぬ人々に心底恐怖した。

自分が何処の誰かも覚えていない。

その怖さ故に喉を縛り付けられ、誰とも会話ができなかった。

でも、誰も拒絶しなかった。

自分を家族として迎え入れ、友達ができた。

数々の愛おしい顔が、勢いよく天に吹き飛んでいく。




(大丈夫……あたしは皆がいる……)




大きな不安と願いは、大粒の涙に変わる。

それを振り払うと、視線は塔の麓で島の崩壊に狂い鳴く竜に向く。




 竜は、間もなく落ちる彼女に気付いて顔を上げた。

僅かに残る魔力を青の眼光に灯すと、首が伸び、口を大きく開ける。

シェナは、光を放り投げた。









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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