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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第八話 侵入 
110/133

(19)




「空の神が敵わなかった我らに何ができる……」



「ごたごた煩ぇ……てめぇを消してやる……」



「その光ってるの返してっ! シェナにっ!」




ジェドに合わさり、涙に震えるフィオが食ってかかるが、魔女は細々と溜め息を吐きながら、シェナから強奪した光を睨んだ。

僅かに温かい風を放つそれは、青い血で凝固した波打つ黒髪を微かに揺らしている。




「私達はただっ……大事に生きてるだけっ……!

なのにどうしてっ……

世界を壊すなんてっ……間違ってるっ!

皆っ……頑張って生きてるのっ……!

リヴィアだってっ!

あんたなんかにっ、邪魔される筋合いはないっ……!

消えてよっ! さっさと消えてよっ!」




全身に激痛を負う中、フィオは声を懸命に絞り出して訴えた。

魔女は、その苛立たしい姿に睨みを利かす。




「履き違えるな餓鬼。邪魔はお前達人間だ」



「違うっ! 私達はあんたじゃないっ!

私達は命を大事にするっ!

海もっ……木もっ……全部っ……!」




魔女の杖の先端が、力ない音を手て落ちた。

先端の光が床を這うように、また、溶けるようにして横たわる。




「おいおい雑魚が……

笑いを通り越して呆れちまうよ……」




杖を握る手が強まるのに合わせ、ジェドの矢を握る手にもより力が加わる。




「貴様らは汚いんだよ……気任せに欲望の充足を優先するあまり大気を汚し、大地を削り、ガラクタを沈める………その手で、散々な……」




魔女は眼光を黄に灯しながらジェドを睨む。

彼は微動だにせず、冷静さを保ち続けた。




「それでいて己の察知の鈍さにまごつき、復興だの持続可能の世の中をだの何だのと急に喚き、恰も良かれと思い取った行動に悦に入る……一体いつ、地球はそれを悦んだ……」




三人が肩で息を荒げる中、魔女を睨む目に怒りが湧く。




「貴様らはどの生物よりも底辺で愚かだ……その存在価値など端からない!」



「てんめぇーっ!」




ジェドとビクターの声が合わさると、ジェドは握る矢を大きく引いた。




「それが当たるのが先か、破滅が先かだ!」




魔女は語気を強めると同時に杖を真横に大きく振った。

先端に揺れる金の光が放たれると、リヴィアに迫っていく。




 ジェドは目を剥き、それを取ろうと駆けた。

フィオとビクターが彼の名を叫んだ時――光は突如、届かないジェドの指先でふわりと包み込まれ、そのまま床を激しく転がった。




「シェナ!?」




奇跡的に正気を取り戻した彼女が、リヴィアの鉄格子に触れる手前で光を瞬時に受け止めた。

するとその足で小窓まで走り、窓枠に攀じ登り始めるではないか。






 魔女の目が赤く増光し、叫声を轟かせると壁や天井から落石が起きた。

シェナはそれでも窓に登り詰め、状況に怯む三人を振り返る。

目が合った三人は、彼女の喉元に絶句した。

見るに耐えない、杖が食い込んでいた痣がある。

そこから頬にまで、黒い亀裂のような模様が走っていた。

掴み取られた金の炎のような光は触れても害はないようで、シェナの震える手に優しく収まり、揺れている。









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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