(19)
「空の神が敵わなかった我らに何ができる……」
「ごたごた煩ぇ……てめぇを消してやる……」
「その光ってるの返してっ! シェナにっ!」
ジェドに合わさり、涙に震えるフィオが食ってかかるが、魔女は細々と溜め息を吐きながら、シェナから強奪した光を睨んだ。
僅かに温かい風を放つそれは、青い血で凝固した波打つ黒髪を微かに揺らしている。
「私達はただっ……大事に生きてるだけっ……!
なのにどうしてっ……
世界を壊すなんてっ……間違ってるっ!
皆っ……頑張って生きてるのっ……!
リヴィアだってっ!
あんたなんかにっ、邪魔される筋合いはないっ……!
消えてよっ! さっさと消えてよっ!」
全身に激痛を負う中、フィオは声を懸命に絞り出して訴えた。
魔女は、その苛立たしい姿に睨みを利かす。
「履き違えるな餓鬼。邪魔はお前達人間だ」
「違うっ! 私達はあんたじゃないっ!
私達は命を大事にするっ!
海もっ……木もっ……全部っ……!」
魔女の杖の先端が、力ない音を手て落ちた。
先端の光が床を這うように、また、溶けるようにして横たわる。
「おいおい雑魚が……
笑いを通り越して呆れちまうよ……」
杖を握る手が強まるのに合わせ、ジェドの矢を握る手にもより力が加わる。
「貴様らは汚いんだよ……気任せに欲望の充足を優先するあまり大気を汚し、大地を削り、ガラクタを沈める………その手で、散々な……」
魔女は眼光を黄に灯しながらジェドを睨む。
彼は微動だにせず、冷静さを保ち続けた。
「それでいて己の察知の鈍さにまごつき、復興だの持続可能の世の中をだの何だのと急に喚き、恰も良かれと思い取った行動に悦に入る……一体いつ、地球はそれを悦んだ……」
三人が肩で息を荒げる中、魔女を睨む目に怒りが湧く。
「貴様らはどの生物よりも底辺で愚かだ……その存在価値など端からない!」
「てんめぇーっ!」
ジェドとビクターの声が合わさると、ジェドは握る矢を大きく引いた。
「それが当たるのが先か、破滅が先かだ!」
魔女は語気を強めると同時に杖を真横に大きく振った。
先端に揺れる金の光が放たれると、リヴィアに迫っていく。
ジェドは目を剥き、それを取ろうと駆けた。
フィオとビクターが彼の名を叫んだ時――光は突如、届かないジェドの指先でふわりと包み込まれ、そのまま床を激しく転がった。
「シェナ!?」
奇跡的に正気を取り戻した彼女が、リヴィアの鉄格子に触れる手前で光を瞬時に受け止めた。
するとその足で小窓まで走り、窓枠に攀じ登り始めるではないか。
魔女の目が赤く増光し、叫声を轟かせると壁や天井から落石が起きた。
シェナはそれでも窓に登り詰め、状況に怯む三人を振り返る。
目が合った三人は、彼女の喉元に絶句した。
見るに耐えない、杖が食い込んでいた痣がある。
そこから頬にまで、黒い亀裂のような模様が走っていた。
掴み取られた金の炎のような光は触れても害はないようで、シェナの震える手に優しく収まり、揺れている。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します