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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第八話 侵入 
109/133

(18)




 フィオは四つん這いに身を起こし、荒々しく息をしている。

ジェドがその肩に触れるも、その僅かな接触すら激痛を催し、叫んでしまう。




「抜いっ……てっ……抜いてっ……!」




フィオは小刻みに呼吸し、涙ぐんで訴える。

息を呑み、痛みを懸命に食い縛ろうとしていた。




「だいっ……だ、大丈夫っ……だからっ……

早っ、早くっ……! 早くしてっ!」




速まる鼓動が抑えきれないまま、ジェドは暫し目を閉じ、息を整える。

そして彼女に刺さる矢を握った。




 ビクターはその光景を横目に歯を鳴らし、魔女に向かって震える照準器を覗いた途端、杖の先が花開くように広がると、シェナが呆気なく落下した。

声を上げる間もなく視界に飛び込んだのは、金色の光を滲ませた球体。

杖の先で、まるで炎のように美しく揺らぎ、ぼんやりと浮かび上がるそれは見るからに温かい。




「シェナ!」




ビクターが叫んでも、返事はない。






 魔女は己から光を消すと、本来の声に戻った。

頭を垂れて静止していた下部は目を赤く灯し、魔女の周りで騒ぎ立ててはフィオとビクターに攻め寄る。




「お待ちかねだよ女王陛下。

貴様が命乞いした連中と来たら、笑っちまう。

自ずと血を捧げに来たぞ」




魔女は言いながら、鉄格子の中で開眼したまま動かないリヴィアの顎を引っ掴み、嘲笑う。




 「リヴィアを放せこの蛇野郎!」




ビクターは背中の激痛に息を荒げながら怒号を放った。

その直後、矢を引き抜かれたフィオの叫び声が辺りを埋め尽くす。

ジェドは抜いた矢を握るや否や、接近する敵を大きく引っ搔くと、深々と胸部を突き刺した。




 ビクターがライフルを支えに中腰になったところ、ナイフを抜き、敵を切り付ける。

だが激痛に空振りし、その隙に頭を殴打されると激しく顔から倒れた。






 ジェドがビクターに駆け寄ろうとした時、不意に足元から蔓が伸びると行く手を阻まれる。

腰の高さにまで伸びたそれは荊と化し、ビクターとの間に隔たりができてしまった。




 ジェドは怒りに震えながら魔女を睨むも、静かに矢を構えたまま向き合う。

魔女は彼の目の前に浮かんだまま、ただ杖を握っている。

リヴィアの血に染まる蛇の顔が金色に照らされ、露骨に曝け出されていた。

返り血を浴びるその姿は、彼女を連れ去ってからも、もう一悶着あった事を物語っている。




 未だ何も仕掛けずに睥睨する魔女。

ジェドは、杖の先端に自然と目を奪われていく。

一体、シェナから何を奪ったというのか。

美しく揺れる金とオレンジが混ざる炎のような球体。

美し過ぎるそれは時折、金の光の強度を増す。

そこからは、微かだが小さな笑い声や泣き声が高くこだまし、耳に流れ込む。

場違いな癒しと温かさは、どういう訳か引き付けようとまでする。

それに気を取られ続けた矢先に何が起こるのか。

油断してはならないと、首を激しく振っては魔女に集中したその時、捉えた最悪の笑みからある事が過った。

金色の球体が何かを察した瞬間、ジェドの矢を握る手が憎悪に震えると首の位置で後方に引かれる。









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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