(16)
魔女はシェナに接近すると、彼女の髪を鷲掴みする。
乱暴に、舐め回すように彼女の首を左右前後と傾けては、心底楽し気に眺めた。
「触んなぁー!」
ビクターは怒りに任せて剣の敵を蹴飛ばすと、振り向きざまに魔女に向かってライフルを放った。
背に弾丸を受けた魔女は激痛の叫びを上げる。
それに被さるように、ビクターの悲鳴が上った。
何事かとフィオが振り向いた時、ジェドが既に、背中を大きく切り付けられたビクターに疾走していた。
彼の余りの速さに目を疑ったフィオは、思わず恐怖する。
ジェドは、駆けつけた先に立つ槍の敵を即座に殴り倒すと、更に槍を強奪した。
奪い返そうと反撃する敵だが、瞬く間に槍で貫かれてしまう。
ビクターもまた、俯せのまま彼に恐怖の目を向けていた。
尋常でない動きはまるで、憑りつかれているのか。
ジェドは、敵を貫いた槍を素早く抜くと踵を返す。
迫るのは、ビクターの攻撃の反動で剣を弾かれた敵。
彼はそれに槍を握り直すと、狙いを定めて反対側の壁に大きく薙ぎ払う。
敵が叩きつけられた真横にいたフィオが、短い悲鳴と共に身を竦めた。
彼の身に何が起きているのか。
敵は壁にやや減り込んでいる。
しかししぶとく、敵は更に彼女を襲おうと手を伸ばした次の瞬間――ジェドが投擲した槍がその顔面を貫き、息の根を止めた。
そこからは、静かに白煙が昇り始める。
息を強く吐いたジェドは止まる事なく、自分の槍を抜き取ると魔女に身を屈める。
しかし
「ジェド止めて!」
フィオが堪らず飛びついた。
魔女は胸元を大きく叩き、食らった銃弾を弾き出すと、混乱する二人の光景を鼻で笑った。
まだ這い進むのがやっとのビクターは、ジェドの抑制に必死になるフィオに近付いていく。
彼女が彼を止めるのも当然だった。
人離れしたような手捌きが、異常に思えてならなかった。
今の彼は、いつもの彼とはまるで違う。
「放せ! 邪魔すんな! どけ!」
それでもフィオは、猛り狂う彼の首と胴体に手足を絡めてでも抑え込む。
彼は暴走し、なりふり構わず敵を仕留めようとする。
こんなのは、ジェドではない。
「止めて! 止まって!」
「黙れ! 殺してやる! どいてろ!」
刹那、ジェドの額に重い衝撃が走ると騒ぎが絶たれた。
追いついたビクターが、出せるだけの力で拳を振り下ろし、ようやく彼は静まる。
「傑作だな!
そのザマでよくもまぁここまでやってこられたもんだよ!
何だったら相応しい姿に変えてやろうか」
声を上げる魔女はしかし、脇腹に深く打撃を食らって嗚咽を漏らす。
シェナは、喉に食い込む杖を支えに足蹴した。
「煩いっ……」
喉から打ち付けられている彼女は息をするのもやっとだが、嗄れ声で怒りをぶつける。
仲間を想う気持ちが、自身を奮い立たせていた。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します