(13)
ビクターは、先程ジェドが触れたものの両側にある別の物体に目を向け、首を傾げる。
まるでジェットスキーのハンドルに似たものが、縦に一本ずつ据えられていた。
「動かせそうだな」
ジェドは、どこか恰好いいそれらに釘付けになる。
左右、前後、旋回と、自在にスライド操作が可能なように思わせる、付け根の仕組み。
一体これは何をするものなのかと、四人の目移りは一向に止まない。
そこへ、何かが引き摺られる音が響き、ジェドとビクターは肩を飛び上がらせてそちらを振り向く。
「見て! これ持って帰らない!?」
フィオとシェナが巨大な曲面ガラスを引っ張り出し、興奮していた。
見せられた二人は目を剥き、まじまじとそれを眺める。
瓶やレンズの大きさをしたそれしか見た事がなく、二人が手にするものは比較にならない。
やけに重く、厚みもあった。
部分的に広がる割れ目から、小さな破片が転がり落ちる。
「潜るのにそいつでゴーグル作ろうぜ」
ジェドが言うと、この場の危険をそっちのけに、どんどん周囲のガラクタにも興味をそそられた。
「見ろよ鉄だ! 絶対喜ぶって、おっちゃん達」
そう言ってビクターに突き付ける。
何かから剥がれ落ちたのか、四十センチ四方ほどの鉄板だ。
四隅に穴が開いており、どのようにして付着したのかが分からないほどの、酷い焼け跡が残っている。
「頑丈な物ばっか!
全部持って帰って道具作りに使いましょ!
船だって作れちゃうわ!」
シェナは目にする一つ一つから、生み出せそうな生活用品を想像した。
更に、床に落ちていた湾曲した細長い鉄棒も見つける。
ビクターは手渡された鉄板を脇に置き、張り巡らされている大量の管に目を這わせた。
天井に突き刺さる鉄棒に繋がるそれらには、何かが中に流れているような気がした。
「竜に頼んで運び出そうぜ」
ジェドは言いながら、シェナとフィオが何かを漁り続ける方へ向かった瞬間――あまりに多い足元の管に躓き、咄嗟に目の前に垂れ下がる別の管の束を掴んだ。
彼の全体重がかかったそれが天井から抜け落ち、雷のような軋み音が短く響く。
白光と共に放たれた破裂音に合わさるように、ジェドは激しく転倒した。
皆は短い悲鳴を上げて身を縮める中、電流が稲妻の如く周囲の管を迸り、点滅していた板の光を消してしまう。
その場は真っ暗になり、緊張の息遣いに満たされていった。
「……壊れたの?」
シェナの大きく瞬く目が暗闇で微かに光った時、気味悪い静寂はが徐々に、あの濁声の嘲笑に消されていく。
やがて、塔が揺れを起こした。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します