(12)
入り口に近付いたところで、まずは目だけでフロアを覗く。
同じ小窓を確認するよりも先に、辺りに広がる異常な光景に目を疑った。
敵の影はなく、下の広間に比べてあらゆるものがごった返している。
数多の管が壁と床に張り巡らされ、それらは更に上の階に伸びていた。
天井から貫通している錆びた鉄棒で繋がっている様を見て、下の階の天井と状況が一致する。
ビクターが更に顔を突き出した横に、フィオが大きく頭を突き出す。
「何なのこれ?」
彼女は、上半身が映るほど大きな板に釘付けだ。
白光が点滅するそれは、ガラスを太陽に反射させたように見える。
何故、他から光を受けている訳でもないのに独りでに点滅しているのか。
更に妙なのは、馴染みのあるものがそれらに多く付着している事だ。
隅には黒い塊が横転している。
「おい!」
フィオはビクターの声もよそに、吸い寄せられるようにガラクタに近付いていく。
ビクターが慌てて追うと、後の二人もぞろぞろと続いた。
「やめとけ!」
横転する謎の物体に触れようとするフィオの手を、ビクターは慌てて掴み止めた。
「貝が引っ付いてる!」
シェナが目を見開き、第一印象を放った。
何故か、張り巡らされた管にもフジツボや乾いた海藻が巻き付いている。
匂いを嗅げば、焦げ臭さに磯の香りが混ざっているのを感じた。
ジェドは眉を寄せてガラクタを眺めながら、点滅する板に近付く。
眩しさで薄目になるところ、じっと観察する。
何やら細い緑の糸のような物が、板の中にだけ流れていた。
点滅するそれを凝視するのが辛く、すぐ手前に連なるものを見下ろす。
光る板と向かい合わせになっているのは、またしても板だ。
黒いそれをよく見ると、四角形をした細かい板が多く敷き詰められ、綺麗に列を成している。
殆ど同じ形をしているが、時折、横や縦に長くなっているものもある。
ジェドは何となく、人差し指で一つ触れてみた――ほんの軽く触れただけで容易にカチッと音を立てて沈み、大きくあとずさる。
途轍もなく薄い感覚がし、それと指先を何度も目で往復した。
「バカ! 下手に触んな!」
ビクターが探索し始める三人に小さく放つと、最初にフィオが目にしていた黒い塊を振り返る。
よく見ると椅子にも見える形だが、ただ横転しているだけで何かが繋がっている様子はない。
だがどいう訳か、滑車が四つついている。
実に珍しい容姿から移動のしやすさを想像したが、特に触れずにジェドの傍に向かった。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します