(11)
侵入してすぐのところで、ビクターとフィオは身を縮めながら目だけで観察する。
辺りにみっちり広がる暗闇はまるで、西の海に潜ったような感覚だ。
円形の広間を観察し続けるうちに目が慣れると、奥の壁沿いに、岩でできた階段が見えた。
仰ぎ見ると、天井の穴に続いている。
「静か……」
不気味でならない空間に、フィオの小さな呟きがふわりとこだまする。
辺りを見回していると、天井に何かがある事に気付き、目を凝らした。
長く、時に途切れてぶら下がっていたり、張り巡らされている物体。
ロープのようだが、違うのか。
背後で壁を叩く音がし、フィオとビクターは慌てて振り返る。
シェナが窓枠から手を伸ばしていた。
二人は彼女の肩を掴むと、掛け声と共に引き上げる。
真下のジェドは、彼女の足を押し上げて補助した。
その後、彼が軽々と窓枠に乗っかると、そのまま真下の竜を振り返った。
こちらをじっと見上げている目は、どこか不安気だ。
「そこにいろよ」
ジェドは、願いを小さな声にする。
一時に比べて実に従順な竜は、身を顎下まで浸水させると、静かにそこに留まった。
四人は身を寄せ合いながら、広間の中央まで移動する。
先程見つけたロープを思わせる物体は、天井から壁を伝って床まで伸び、更に下へめり込んでいる。
シェナがそれに触れようとしたが、そこには熱が帯びており、直ぐさま手を引っ込める。
「管……?」
ジェドは呟き、再び天井に目を凝らした。
四方八方に這って伸びるそれらの隙間から、点滅する白光が僅かに漏れている。
外から塔を見た際に目に留まったものと同じだろうか。
静かとはいえ、敵がいる可能性が高い。
「音立てんなよ」
ビクターが小声で指示すると、足を忍ばせながら階段を上がり始める。
三人もまた、慎重に彼に続いた。
上り続けるうちに足場に違和感を感じ、皆は足を止めて警戒する。
一つ一つの段は非常に脆く、高さは不揃いだ。
縁から岩の欠片が小さく音を立てて落ちていく。
向かう先にぽつりと空いた穴のような入り口は、目と鼻の先だ。
白光が、その部屋を点滅させているのがより分かる。
ビクターは、冷えた手でライフルに力を込め、深呼吸した。
背後のフィオも槍を握り、恐怖の目で点滅する部屋を凝視する。
シェナは武器ベルトに挿すナイフの柄に触れながら、震えていた。
それを見たジェドが、そっとその手を覆う。
「行くぞ」
シェナはジェドの声に息を呑み、小刻みに頷いた。
リヴィアを助け、島に帰るためにも、怖がってばかりではいけない。
ビクターは身を屈め、階段が崩れ落ちないよう、また、自分も落ちてしまわないよう慎重に上り始めた。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します