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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第八話 侵入 
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(10)




挿絵(By みてみん)




 薄い靄の中、装填口が閉じる音だけが静かに響く。

気味悪くてならない静寂に、自分達のちょっとした声が水面に敏感に反応し、細かな波紋を生む。




 フィオが角の傍でしゃがんでいたシェナの肩に触れ、ビクターの腕を優しく掴んだ。

冷たい手は少し震えているが、揺るがない眼差しのまま、皆に頷く。

中腰だったジェドも、怯えるシェナの手を取って立ち上がり、ビクターの肩に手を置いた。

ビクターは、腕をフィオとジェドの背中に回す。




「中の無事が確認できたら合図する。

それから一緒に上げてもらえ」




皆の震える息は、靄を緩やかに歪ませていく。




「あと、使えるもんは片っ端から使え。

リヴィアの斧は無理だったけど、あの小っせぇ連中の鎌は使えた」



「使ったの!?」




フィオとジェドがビクターに目を剥く。

彼は頷くと、続けた。




「もう最後にする……してみせる……いいな」




シェナの目が、緊張に満ちて揺れる。




「さっさと帰って飯食って寝ようぜ……」




ジェドの言葉が、僅かに笑いを生んだ。

とは言え、未だ空腹を感じないのだが。






 円陣を解くと、フィオとビクターは待ち構えていた髭をいよいよ握る。

するとそれらは、二人の手を滑って胴体に巻きつき、ゆっくりと浮上し始めた。




 真上に見える最初の小窓が、徐々に近付いてくる。

フィオは槍を、ビクターはライフルを構えた。

互いの顔に、早くも長い冷や汗が伝う。




 二人は、窓から頭一つ下の位置で止まった。

髭の長さが限界のようだ。

ビクターは窓枠に手を掛けると、髭が解けると同時に何とかそこを攀じ登る。

麓の透明の岩と同様に、塔の全体が薄い水の膜に覆われていた。

滑らないよう、足元に丁度いい凹みを探して身を支える。

そして身を乗り出すと、中を覗き込んだ。






 中は真っ暗で誰もいない。

そのままぐっと首を伸ばし、隅々まで目を凝らす。

森に漂う焦げ臭さもあるが、他にも何かが焼けたような、嗅いだ事のない臭みがある。

しかし、それ以外に何もない、まるで空っぽの桶のようだ。




 ビクターはフィオを振り返って頷くと、そのまま窓に攀じ登り、両手を伸ばす。

竜の力が弱っており、フィオの位置が若干下がっていたが、彼女も腕を力いっぱい伸ばしてビクターを掴むと、窓枠にしがみついた。




 フィオから髭が解かれると、ビクターは彼女の背中の生地を引いて補助し、無事、侵入に成功する。

二人は下に合図を送り、そのままこちらに来るよう促した。









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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