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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第八話 侵入 
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(9)




 竜は湖に浮かぶと下顎が浸かるまで沈み、音もなく器用に泳いで進む。

斜めに流れる優雅な波紋を生みながら、漣のような無音の波を立てていく。

安定した速度が保たれ、まるで船に乗っている感覚だ。




 辺りに靄がかかる肌寒い空間。皆は身を寄せ合い、接近する薄気味悪い塔に硬直する。

そこへ、フィオが切り出した。




「これ、辿り着いてからどうなるの?」



「……どっか入口でもあるの?」




シェナが角の横からそれらしいものを探り、ビクターは塔の全体を舐め回すように観察する。

今のところ、壁に小窓があるだけで、他に出入りできそうなところは見当たらない。




「まさか登るんじゃねぇだろうな……」




ジェドは嫌な予感を呟いた時、竜が止まった。






 太く鋭利な透明の岩に、薄っすらと四人が映る。

滑らかな表面には水が流れており、まるで膜を張っているようで、手足を掛けると滑ってしまいそうだ。




 壁に沿って塔をうんと仰ぎ見ると小窓を捉え、皆は顔を見合わせる。

やはりジェドの言う通りなのかと焦ってしまう。




「ねぇ! 他に入り口はないの?」




フィオは竜の頭から鼻筋を這い、目が見えるところまで来て訊ねた。

だが、唸り声などの反応も、これ以上移動する気配もない。




「もっと木登りしておくんだったわ……」




シェナが青ざめて呟くと、髭が二本、皆の目の前に伸びて止まった。

暫し目を瞬く間、その動きの意味を共に察すると、ビクターが髭の先を掴む。




「待って」




フィオは慌てて、彼の背中に伸びるライフルのベルトを引いた。




「一緒に上げてもらいましょ」




言いながら、彼女はもう一本の髭を掴んだ。




「一人で行かないで」




いつも我先にと出るビクターは、何に置いても手本になってくれていた。

しかしこの状況に置いてまでそうするのは、きっと違うだろう。

いつもの遊びや悪戯ならば笑って見ていられるが、今の彼は、友達の為に体を張って先陣を切っている。

それが分かるほどに、酷く怖くなった。

ここにいる誰よりも年長だが、大人ではない。

彼がいつでも先に行く事を、当たり前にし続けてはならない。






 ビクターはしばらくフィオを見てからふと笑い、頷く。




「入る前にちゃんとよく調べろよ」




ジェドは言いながら、持っていた唯一の弾薬箱を彼に渡した。




「お前の方が上手い……」




ビクターは静かにそれを受け取ると、ライフルに装填していく。

そこへ、シェナの不安気な声が小さく転がった。




「もう帰れる……?」









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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