(5)
「見ろ。フィオのやつ、行く気満々だ」
ビクターは船縁から彼女の位置を指しながら、ジェドを振り向かせる。
ジェドはブラシの手を止め、遠くの桟橋を見た。
こちらに気付いた彼女は、何か動きを見せる。
「何か言ってんぞ」
見るとフィオは大きく手招きし、西の方角を指差していた。
「すぐ出るんだろうな」
ビクターは踵を返すとブラシを肩に乗せ、足早に去る。
「波落ち着いてねぇぞ」
ジェドは慌てて彼の後を追った。
二人は急ぐ最中、フィオとシェナの分の食料もしっかり確保する。
そしていよいよ漁船から駆け出そうとするのだが
「随分とお急ぎだな」
「あー」
ビクターは上手くかわせずについ声を上げながら、マージェスを見た。
二人を捉えた彼の表情からすると、行動はお見通しといったところか。
「用事だ」
そう言うビクターの背後で、ジェドも立ち止まっている。
「言い訳はいい。今日だけはやめろ。
ジェド、お前もだ」
ビクターの肩に、マージェスの大きな厚い手がのしかかる。
「いやいや待ってよおっちゃん」
ビクターは笑いながら、彼の手をそっとどかした。
「今まで危なっかしい事してきても何ともなかった。
何でって俺がついてるからだ。だから大丈夫!」
「開き直るな!」
駆けようとするビクターにマージェスが腕を伸ばすが、彼は滑らかに躱される。
「走れ!」
ジェドを連れてビクターは全力疾走した。
民家の間をみるみる擦り抜け、無言で枝分かれし、互いに自宅に向かう。
マージェスは溜め息を吐く。
あっという間に姿を消した二人を眺めて立ち尽くしていると、作業を終えて漁船から現れたカイルが苦笑した。
「何言っても聞かないだろう。そういう年頃だ。
西だ、何かあればすぐに助けに行ける」
「今日はいつも通りに終わる気がしないから俺は……」
四人がしている事は、お遊びが過ぎるところもある。
珍しく参った表情を浮かべるマージェスを横に、カイルは四人が集まるであろう桟橋を振り返った。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




