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悪魔皇帝は玉座に座らない  作者: はむだんご
第三章 タイムステラに捧ぐ
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このくらいよゆーなんだから!


 初めて講義を受けた日から曜日が一周した。


「やっと見つけた!」


 講義が終わりキャンパス内に併設されたカフェでくつろいでいると、一際大きく、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「あ、リデルだ」


 前の席に座るクロネが、俺の背後を見て呟く。


「ヴェール、クロネ!もー、全っ然会えないからびっくりしちゃったわ!大学広すぎね!」

「……あ、……どうも、リデル」


 頭をテーブルに預けながら振り返り、あいさつをすると、それを見たリデルが一瞬で真顔に変わる。


「…………え、ヴェールどうしたの?」

「そっとしておいてあげて」

「そ、そう?」

「……ぐすん」


 さて、何故こんなことになっているかというと、例の講義――魔法構築理論Ⅰのせいである。


 そう、あの地獄が再びやってきたのだ。前回程ひどくはなかったが、それでも講義時間の半分は俺(偽)の話で潰れた。逆に言えば、前回よりもまともな時間が長かったせいでちょっと期待してしまい、上げて落とされた気分である。


 二度と受けるかこんな講義と心に決めたのだが、先程ルピカと別れるとき……


 ――あああああ!もっとみんなとマクス様談義したいいいいいっ!そうだ!店長にお願いして、バイト週5から週4に減らしてもらお!二人とも、来週のこの時間予定空けといてね!じゃあまた明日っ!!


 純粋無垢、キラッキラした顔でそんなことを言われてしまったら黙るしかなかった。俺には、あの笑顔を曇らせることなどできない。


(大丈夫……大丈夫、あと3ヶ月耐えるだけ)


 テーブルに突っ伏し、念仏のように唱えて自身に言い聞かせる。


「……え、ホントに大丈夫なのこれ?」

「うん、帰る頃にはケロッとしてるよ。多分」

「そ、そっか……」


 微妙な空気が場を支配する。そこへ、知らない声が割り入った。


「リデルちゃん、おともだちー?」


 顔を上げると、車椅子に座った女性がリデルに話しかけていた。


「――あっ!ごめんカナ姉、急に飛び出しちゃって。紹介するね!」


 リデルは彼女に俺とクロネのことを順番に紹介した。すると、車椅子の女性は「あっ」とこえを漏らして手を合わせた。


「じゃあこの子たちが、リデルちゃんの恩人さんたちなのねー?」

「うん!二人とも、この人はカナリア。私のお姉ちゃんみたいな存在だよ」

「気軽にカナってよんでねー。聞いたよー、リデルちゃんの魔力直してくれたって。ありがとー」


 ああ、あのこと話してたのか。


「よろしく、カナ」


 早速呼び捨てで挨拶するクロネに俺も続く。


「よろしくお願いします」

「うん、二人ともよろしくねー」


 両手をフリフリさせ、おっとりとした笑顔を咲かせるカナリア。


「ねぇ、カナは足悪いの?」


 いきなりぶっこんだなこいつ……。


 カナリアはクロネのドストレートな質問に対して笑顔を崩さず、にっこりと答えた。


「そうだよー。なんか変な病気にかかっちゃってねー?もう治らないかもって言われちゃった」

「そっか……」


 少しだけ、気まずい空気になる。クロネも失礼なことをしたとようやく気づいたのか、顔が引きつっていた。


「あっ、でもでも、私はあんまり気にしてないんだー。この車椅子、魔力で簡単に動かせるから楽チンなの。むしろ、足が動いてた時よりいろんなところ行けるからすっごく楽しいよー!」


 気を利かせているわけではない。カナリアは本心でそう語ったのだ。だがここでもクロネは余計なことを言う。


「でも、視界下がっちゃったんじゃない?――うっ」


 俺はすかさず、テーブルの下でクロネの足を踏んだ。


「うぐっ!?い、痛いとこ突くねー?確かにそれは悲しかったかも」

「そうだよね」


 クロネは席を立ち、カナリアの前に手を差し伸べる。そして、キザったらしく言う。


「久しぶりに、高いところからの景色はいかが?」

「……へ?」

「私、悪魔だから。肩車くらいよゆーだよ」


 ああ、いきなり何を言い出すかと思えば……そういうことか。


「か、肩車?それは、流石に申し訳ないなーって……」


 遠回しに遠慮するカナリアに対し、激烈な反応を見せたのは――リデルである。


「――その手があったわねっ!!!」


 素早い動きでカナリアを抱きかかえると、そのまま肩に乗せた。


「ちょっ、リデルちゃん!?」

「ふふふ、大丈夫よカナ姉、私だってこのくらいよゆーなんだから!ごめんね二人とも、ちょっと行ってくる!」

「待って、待ってリデルちゃん!ああっ私の車椅子ぅーー!」


 風のように去っていったリデルとカナリア。果たしてカナリアは、無事に景色を楽しむことが出来るのだろうか。


「クロネ……カナリアさんが気にしてなさそうだからよかったけど、ああいうこと言うのはどうかと思うぞ」

「……はい、反省します」


 とりあえず再び休憩しつつ、二人が戻って来るまで車椅子の見張っておいた。






☆★☆★☆






「おおー、ここが俺の個人研究室か」


 リデルとカナリアが帰ってきて車椅子を引き取った後、俺とクロネは与えられた個人研究室を見に来ていた。


 六畳程度の広さだが、専門書が並べられた本棚に、明らかに新品の作業台が置かれていて雰囲気はかなりよかった。


「ちなみに、私のは隣だね」

「へぇ」


 クロネの個人研究室か。


「見に行ってもいいか?」

「いいよ」


 許可をもらったのでお邪魔させてもらった。


「うわ、汚っ」

「ふ、まあね」

「褒めてないからそのドヤ顔やめろ」


 なんで胸張ってんだこいつ。


「……あ」


 足の踏み場を探しつつ、慎重に奥へ進むと、作業台に置かれているあるものが目に入った。


「これってもしかして――」

「――うん、AMWIG(人工波動珠)だよ。私の研究対象」

「やっぱり……」


 乱雑に置かれたそれを手に取り、間近で眺める。正直、普通波動珠と見分けがつかない。


「それはアクセサリー用だね。貸して」


 言われた通りに渡すと、AMWIGから美しい緑色の六芒星が浮かび上がった。


「こんな感じ」

「おおっ」

「結構コツがいるけど、慣れてくると楽しいよ。魔力制御の練習にもなるし。ヴェールもやってみる?」

「いいのか!?」

「うん。いっぱいあるから、好きに使っていいよ」


 クロネは作業台から箱をひとつ掴み上げると、それをジャラジャラとゆすった。


「はい、どうぞ」


 受け取った箱の中には指輪、ブローチ、ネックレスなどのさまざまなアクセサリーが入っており、その全てにAMWIGが嵌め込まれていた。


 早速ひとつ取り出して、波動を記録させてみた。


「……お、流石大空の賢者様だね。きれいにできてる」


 花の形をしたAMWIGを見て、クロネはそう呟いた。


「まあ、透明だから映えないけどな」

「それは確かに。土、時空、虚無属性あたりはあんまり人気ないかも」


 やっぱそうなのか。


「なあクロネ、これ持って帰っていいか?もうちょっとやってみたい」

「いいよ、全部あげる」

「さんきゅー」


 クロネに礼を言い、大学をあとにして帰宅する。


 俺は家に帰ってから黙々とAMWIGをこねくり回した。


 俺のスマホがキルフからメッセージを受信したのはそんな時だった。






「……イレギュラーNo.2の封印が、解けかかってる?」


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