さて俺は何者でしょう
何者かだって?
(――俺が聞きたいわボケ!!!)
刃物を突きつけられながら、心のなかで悪態をつく。
さっきまで真剣に考えて、結局分からないという結論に至ったのだ。むしろ知っていることがあれば教えてほしいくらいである。
そんな事を考えていたからか、背後にいる謎の人物からポロポロと新しい情報がこぼれてきた。
「――何故“女神の器“に憑依しておる、どうやって世界樹の種子の“封印“を解いた?答えろっ!」
(……なるほど)
口振りからして、こいつはヴェールという存在を知っているようだ。
先程の何者かという質問は、ヴェールにではなく中身である俺に向けたものだったらしい。
正直に言うべきだろうか?
(いや……)
声色的に、何やら焦っている様子だった。
この器とやらが相当大事なのだろう。多分だが、器を傷つけてまで俺を殺すつもりはなさそうだ。
「おい、何を黙っておる。さっさと答えんかっ!」
(少しは考える時間がありそうだな)
こんな状況にも関わらず俺の頭はすぐに冷静になれた。神として覚醒したおかげだろうか。
さて、まずはこいつが言っていた単語について考えてみよう。
(女神の器、か……)
やはりヴェールは調和の女神と深い関わりがあるようだ。
(んー……あ、そういえば)
主神が下界に降臨する際は代わりの器が必要だと女神自身が言っていた気がする。
それがヴェールなのでは?
(……でも、あいつ今寝てるしなぁ)
降臨する本人がいないのなら器なんて必要ないと思う。
それに世界樹の種子の封印というのもよくわからない。
(うーん……)
いや、もういっそのこと聞いてみるか。
「なあ、質問いいか?」
「ようやく口を開いたかと思えば……おぬし、肝が座りすぎではないか?」
「だって殺す気ないだろ?」
「……まあ」
存外あっさり認めた。
「安心しろよ、どうせ俺はこの空間から抜け出せない」
「……はぁ、よかろう。言うてみぃ」
脅すだけ無駄だと判断したのか、首元から刃物が取り下げられた。
俺は特に振り返ることなく質問を投げかけた。
「じゃあまずは、お前がさっき言ってた器と封印について詳しく教えてくれ」
「む、まさか知らずに憑依しておったのか?」
「悪魔になって目覚めたときは、この子のことを知ってる奴が周りにいなかったからな。正直、名前くらいしかわからん」
「……待て、悪魔じゃと?」
ん?もしかして気づいてなかったのか?
俺は指輪を外して尻尾の偽装を解いた。
「ほら、ちゃんと尻尾あるだろ?」
「………………ふむ」
反応うっす。
「すまん、質問じゃったな。女神の器とはその名の通り、調和の女神が降臨に使用する器じゃ」
「それはなんとなくわかってた。だが今女神は寝てるんじゃなかったか?」
「ああ、じゃが近いうちに必ず目覚める。女神の器が生み出されたとはそういうことじゃ」
ん?どういうことだ?
「詳しく頼む」
「……器を勝手に生むことはできん。生まれる条件は一つだけ――世界の意思が未来予知し、下界の民ではどうしようもない厄災が起こると判断したときじゃ」
「世界の意思ってのは?」
「この世界には独自の意思が宿っておる。そして最上位存在は主神ではなく世界じゃ。主神というのはあくまで世界に認められた管理者であって、勝手にその力を振るうことは許されぬ」
「なるほど……つまり、世界の意思とやらは女神が起きると予知していたから器を生んだわけか」
「そうじゃ。目覚めた女神が器に降臨し厄災が回避される、そういう計算だったはずじゃ。しかし今――計算外の事態が起こっておる」
「……俺か」
「それもあるが、どちらかといえばその器が殺されたことじゃな」
ああ、それもそうか。
「予知ってのも完璧じゃないんだな」
「……見えぬものを計算に入れることなど出来んのじゃよ」
「見えないもの……?どういう意味だ?」
「そこまで教えてやる義理はないの」
残念。
「じゃあもう一個の質問の方は?」
「封印か、そっちは単純じゃ。その世界樹の種子は女神が憑依するまで芽吹かないようにされておった。一度誰かのものになるとそいつから切り離せなくなるからの」
ああ、だからさっきから焦ってるのか。
「なるほど。俺が封印を解いて芽吹かせてしまったから、女神の分の世界樹の種子がなくなったと」
「ああ」
「仮にこの器に降臨できたとしても神として力を振るえない。つまり今後起こるであろう厄災に対処できないと」
「……ものわかりが早くて助かる」
「だから、代わりに俺がその役目を担えばいいんだな?」
「そういうことじゃな……………………――は???」
うむうむと肯定していたにも関わらず、しばらくしてから素っ頓狂な声を上げた。
「違ったか?」
「いや、違わないし確かに頼もうと考えておったが……ものわかりが良すぎる……何故じゃ?お主にメリットなどないじゃろう?」
「やるメリットは確かにないけど、やらないデメリットならあるだろ?厄災とやらが起きたら、人類はどうなる?」
「……まあ、絶滅までは行かなくともそれに近い状況になるじゃろうな。世界の意思が厄災と判断するのはそういうレベルの話じゃ」
「十分な理由じゃないか」
まあそれ以外にも、俺が調停者だからって理由はあるけど。
「そうじゃが……はぁ、長年数多くの人間を見てきたが、お主ほどの自己犠牲マンは初めてじゃ」
心外だわ。
「……てか、まだ気づかないのか?」
「む、何の話じゃ?」
そうか、案外わからないもんなんだな。
俺はお前の正体わかったぞ。
「すぐわかる。あんたが最初にしてきた質問に答えよう」
「ほう、やっとか」
俺はおもむろに人差し指を立てた。
「ヒントその一。世界樹の種子の封印が解けたのは、おそらく俺が女神の加護を持っていたからだ。女神の力に触れて勘違いしたんだろう」
「……なぬ、加護じゃと?」
背後の声を無視して続ける。
「ヒントその二。なんで女神の器に憑依しているか、これに対する答えは悪魔になったからだが……悪魔になる条件として適正属性の一致が必要だ」
女神の器なんだ。虚無属性以外にもないわけがない。
「……………………っ、まさか」
「ヒントその三。さて俺は何者でしょう」
「お主――マクスかっ!?!?!?」
振り返り、答えた。
「――大正解。500年ぶりだな、元気そうで何よりだよ幻惑神」




