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悪魔皇帝は玉座に座らない  作者: はむだんご
第三章 タイムステラに捧ぐ
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それなんてドッキリ?


「ふぅむ……」


 クロネに何とか頼み込み、マックスちゃんのコスプレ撮影会と引き換えにこの宝石について知っていることを教えてもらった。


 ただでは機嫌を直してもらえず、水着衣装を着ることを約束させられてしまったのは痛手だが、背に腹は代えられない。


「うへ、うへへへへ……ビキニ……ヴェールのマイクロビキニ……うへへ」


 余程嬉しかったのか、未来の撮影会に思いを馳せるクロネ。機嫌が直ったようで何よりである。


(衣装を着てモノマネするだけ……この間やったときは意外と楽しめたし、今回もなんとかなるだろ)


 そんなことより今はクロネに教えてもらったことを考えるべきだと思考を切り替えたせいで、俺は盛大にフラグが立ったことに気づけなかった。




 さて、目の前にあるこの宝石は世界樹の種子(アストラルシード)という。


 資格のある者に宿り、他人の信仰などの感情を養分に成長し、発芽させると神としての地位を得られるらしい。


 つまり、今の俺はピカピカ神様一年生というわけだ。準神とか亜神などと呼ばれる存在である。


(……マジで?)


 神?俺が?それなんてドッキリ?


 にわかには信じがたいが、そういうことらしい。


 世界樹の種子には主な機能が二つある。


 ひとつは信者が増えれば増えるほど力が増して神格が上がること、もうひとつは任意だが信者への力の還元である。


 前者に関しては覚えがある。


 持病だと思っていた動悸は十中八九これのせいだろう。


 思い出してみれば、動悸が起きたタイミングはヴェールという存在が大勢の人に(ツイツイで)認知されたとき、それからキルフとミランがヴェール=マクス・マグノリアだと気づいたときだ。


 突然上達するはずのない魔力制御の急成長、そもそも変わるはずのない魔力容量の増加もこれで説明がつく。


(キルフとミランのは……信仰、なんだろうか?)


 若干違うような気がするが……


(――ああ、そうか)


 少し勘違いをしていた。


 クロネは「他人の信仰()()()()()を養分に成長する」と言っていたのだ。


 つまり、必ずしも信仰である必要はない。


(となると、信者というのも少し違うか)


 正しい定義は、世界樹の種子の所持者を認知して一定以上の感情を向けている者……そんな感じだろう。


「あ、そうだ。気をつけてねヴェール」

「ん?」

「この国にいる限り大丈夫だと思うけど……世界樹の種子は悪い感情も等しく吸収する。あまりに多いと邪神化するからね」

「……マジで?」

「もちろん」


 こっわ。


「てか、詳しいなお前。俺ですらこいつの存在知らなかったのに」

「……よかったね。神以外で世界樹の種子のこと知ってるのは、多分私だけだよ」

「っ……」


 そうなのか――そう言葉にしようとしてのどに詰まった。


 クロネの表情に哀愁が漂っていたからだ。


 少なくとも、さっきまでコスプレだぜうぇーい!などと大喜びしてた奴のする顔ではない。


「……ん?どうかした?」

「いや、こっちのセリフだけど……」


 そう返すと、クロネは首を傾げた。どうやら自覚がないらしい。


「ほら、自分の顔見てみろよ」


 俺は内カメラにしたスマホをクロネに渡した。(※ノールに貸していたスマホはキルフ経由で返却されている)


「……?――ハッ!?」


 何かに気づいたクロネはスマホを操作し――


――カシャッ


 シャッター音が鳴った。


「ふふっ、ヴェールの表情差分ゲットだぜ」

「撮ったの俺かよ」


 この流れで自分を撮影しないあたり流石である。


 まあ元気になったのならそれでいいか。


「ほら、用が終わったなら返せ」

「ちょっと待って。写真を私の端末に送るから」

「はいはい……」

「……これでよし。はい」

「ん」


 返ってきたスマホの画面にはRINEのトーク画面が開かれており、一枚の画像が送信されていた。


(一応確認しとくか)


 タップして画像を拡大する。


 すると……




(……………………?)




 ――違和感。




 ――そして既視感。




(なん、だ……この感じ?)


 おかしい。


 ただの写真のはずだ。


 クロネのことを少し心配しているだけの、鏡で何度も見てきたヴェールの写真だ。


「…………」

「え、と……ヴェール、もしかして怒ってる?」


 ――いや、違う。


 俺はこの感覚を知っているはずだ。


(思い出せ。俺はヴェールちゃんを初めて見たとき、何を感じた?)


 記憶を掘り起こし、俺が悪魔として生まれ変わった場面から脳内映像で追憶していく。


 薄暗い路地裏を彷徨い、ガロアにぶつかる。


 道行く人々に囲まれ、サリーと出会う。


 それから……


(……そうだ。サリーさんの家で鏡を見たんだ)


 あのとき俺が感じていたこと。


 それは――






――誰かに似てる……?






――ピシッ


「あ」


 スマホの液晶が割れてしまう。


 知らず知らずのうちに力を込めすぎていたようだ。


「ご、ごめんってヴェール。今撮ったやつ消すから許して!無視しないでぇ!」


 そっと手をかざし、時間遡行魔法を使う。


(……あれ?)


 おかしい、直らない。


「ねぇヴェール!お願い!」


 目の前をクロネの手が通り過ぎる。


 そして――


「――っ!!!!」


 気づいた。


 俺は、ここでようやくスマホから視線を外した。


「あ!やっとこっち見た。ちゃんと聞こえてる?」


 移した視線の先には……


 顔にヒビの入ったクロネの顔。


 ――否。


 このヒビはスマホに入っていたわけでも、ましてやクロネの顔に入っているわけでもない。


 俺の視界に入っていたのだ。


 つまり、このヒビの正体は……











(――――幻惑魔法だ)











――パリンッッッ!


 偽りの世界が砕け散り、背後に隠された真の世界が姿を現した。


 視界に変化はない。強いて言うならヒビがなくなったくらい。


 キョロキョロと周囲を見渡すがそれらしい変化はない。


「ヴェール……?」


 視線を落としてみる。


 すると、とんでもない変化に気づいた。




――ゾワッッッ!




「――っ!!!」


 目にしたものがあまりに衝撃的で、まるで背筋を舐められたかのような感覚に襲われる。


 変化点は先程の写真である。


 ずっと誰かに似ていると思っていた。


 今ならそれが誰なのかはっきりと答えられる。











「……調和の女神、ヴァルディニア」











 そっくりだ。


 髪は違うが、顔のパーツはヴァルディニアをそのまま幼くした感じである。


(瓜二つだ……言い逃れできないほどに)


 写真が信じられなくて亜空間倉庫から手鏡を取り出した。


 だがその途中、もうひとつ変化点があることに気がついた。




「…………ん?」




 手鏡を持つ右手の中指。


 そこに指輪が()()はめられている。


 ひとつは覚えがある。


 指先側にあるのは、尻尾を隠すための偽装の魔道具だ。これは悪魔として復活した次の日、役所でスマホと一緒にもらったものである。


 もうひとつ――指の付け根側にある方がわからない。


 白を基調として細やかな意匠が施されており、高級感がある。市場に出せばその価値は計り知れないだろう。


 そして何より驚いたのは、指輪に嵌め込まれている宝石である。


(なんだこれ、やばすぎる……)


 若干桃色がかった白い宝石。


 そこには可視化されるほどの過大な魔力が込められていた。


(いつからだ?一体いつからこんなもの身につけていた?)


 偽装の指輪は役所でもらってから一度しか外した記憶がない。クロネと初めて会った時、悪魔仲間であることを教えるために外したのだ。


 あのときは一瞬しか外していないし、その間に誰かに着けられたとは考えにくい。


(ってことは、装着順的に最初から……あっ)


 そういえば初めて偽装の指輪を着けたとき、金属音のようなものが鳴っていた気がする。


 やはりあのときには既に嵌められていたのだろう。


 しかし……この指輪は何なのだろうか。


(幻惑魔法を破ってから認識出来るようになったし、これも偽装の魔道具なんだろうけど……)


 それにしては内包されている魔力量が多すぎる。顔を偽装するだけなら0.1%もいらない。


 この指輪にはもっと別の機能があるはずだ。


 しかし、それが何なのかは想像がつかない。


「んーーー……」


 目を閉じて天を仰ぎ、使い過ぎた頭をリセットする。


(ヴェールちゃんって、何者……?)


 謎の魔道具の所持、女神と瓜二つな容姿。


 明らかに普通じゃない。 


(……まあ、これ以上考えても仕方ないか)


 現状、手持ちの情報で整理するとしたらこれくらいが限界だろう。


(そういえばクロネに話しかけられていた気がする)


 長い時間考え込んでいたせいで無視し続けてしまっている。


 謝らないと。




「ごめんクロネ。ちょっと考え事を――」




 ……………………あれ?




「クロネ?」




 ――いない。




(トイレかな……?)




 チラリと周囲を確認するが、クロネは見当たらない。




 否、クロネだけではない。




 ――他の乗客も見当たらない。




 ――誰一人いない。




(…………?)




 静寂のなか、列車が線路を踏み鳴らす音だけが聞こえる。




 立ち上がり、足を使って全ての座席をくまなく確認する。




 ――誰もいない。




「――っ!!」




 焦りで思わず足を動かすペースが早まっていく。




 扉を開け、別の車両も同じように確認する。




 ――3号車、いない。




 ――2号車、いない。




 ――1号車……




「ハァ……ハァ……どう、なってんだ」




 誰一人いなかった。




 運転室にいるはずの車掌すらいなかった。




(どうやって動いてんだよ……)




 ふと、窓の外に目を向けた。




「……………………は?」




 景色が一変していた。




 遠くには山岳地帯、その手前にゴツゴツとした岩山と春先に似合わぬ紅葉たち。




 足元には霧が川のように流れ、地面を覆い隠している。




 そして、太陽らしきものがそれらをオレンジ色に染めていた。




 完全に別世界である。




(ここは――!!)




 俺は、この世界を知っている。




「――幽幻の狭間っ!?」




「――ほう、よく知っておるのう?」




 背後から声が聞こえてきた。




「――っ!?誰だ!?」




 振り返る。




 誰もいない。




 背後から皺の目立つ腕が伸びてきた。




 その手には鋭い刃物が握られ、切っ先が俺の首元を捉えている。




「動くな」




「――っ!?!?」




「ワシの質問に答えろ。貴様――何者じゃ?」


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