表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔皇帝は玉座に座らない  作者: はむだんご
第二章 私、ようやく――
51/85

あれ???


「ぶわははははははっ!一匹って、魔女一匹って!ボロッボロのボロ負けじゃん草生える!雑魚過ぎザマァ!ひぃーーー腹いてぇwww」


 ロゼとミシャの討伐履歴を確認したチュリンは、お腹を押さえながら全力で笑っていた。


「おいっ、いつまでわろとんねん!ええ加減にせんと、いてまうぞゴルァ!」


 ロゼが声を荒らげて睨みをきかせるが、チュリンの笑いは止まらない。


「はぁ?こんなん笑わねぇ方が無理だろ!今もっともEXランクに近いと噂のウォーカーさんともあろうお方が、ぽっと出の二人組に完敗して――ぶふぉっ!」


 途中で堪えきれず、吹き出してしまうチュリン。


 ――ロゼはブチギレた。


「は、ははは……エエで、その喧嘩買ったる。おもて出ろやクソババァッ!!!」

「何度やっても同じだガキンチョ!だが今日は気分がいいから受けてやるよ。何なら、勝てたら本部にランクアップ推薦状出してやろうかぁ?」

「言うたな!?そのセリフ後悔させたるわ!行くでミシャ!」

「もがもがもが」


 こうして騒ぎを引き起こしていた者たちが外へ出ると、協会内は再び静まり返った


 ――が、それも束の間。


 次の瞬間には俺たちが来る前の状態に。そしてその騒ぎはとどまることを知らないほどに大きくなっていった。


 また、ウォーカー姉妹が去ったことで視線を集めていた者たちがいなくなり、自然と場の注目は俺たちに向けられる。


 その雰囲気を感じ取ったのか、クロネは腕を組み、少し得意げな顔をしている。


(こいつすぐ調子に乗るな……)


 俺が呆れていると――


「ああああああああああああああああ!」


 ――突如として大声が上がった。


 声がした方を見てみると、名も知らぬ冒険者が震える指先を俺に向けていた。


(……ん、俺?)


「こ、この子だ……」


 いや、待てよ?


(この人どこかで見たような……)


 幸いにも、その疑問はすぐに解消された。






「この子が――"ホワイトイフリート"だ!!」






「……あっ」


 イフリートという単語で思い出した。この人あれだ。この前リヨちゃんの店にいた男性客だ。


――ざわざわざわ


 その一言で、周囲の冒険者たちがざわめき始める。先ほどまでの騒ぎとは比べものにならない熱気が広がっていた。


(なになになに!?!?)


 俺はその突然の出来事に困惑していた。


「おいおい、お前まだ言ってんのか?」

「いやいや本当なんだって、俺は立ち会ったんだ。伝説が誕生した瞬間に!」

「幻覚でも見てたんだろ。いい加減目を覚ませよ」


 男性客の仲間たちは、からかうように彼の肩を叩いた。


「この子がリヨちゃんにも見破れないような幻惑魔法を使うとでも?あのリヨちゃんだぞ!?」


 だが、男性客のその一言により、仲間たちの顔からニヤけが消える。


 周りの人たちもこの話題に興味があるのか、静かに行く末を見守っている。


 そこへ畳み掛けるように、男性客は俺に同意を求めてきた。


「なあ嬢ちゃん、そうだよな?」

「えっと……?」

「チャレンジメニューのことだよ!」

「あ、ああ。麻婆豆腐なら確かに食べましたけど――」


――ざわざわざわ


 俺の返答に、周囲が再びざわめき始める。


「ほ、ホラじゃなかったのか……」

「だからそう言ってるだろ!まだ信じられないなら店に行ってみろ、写真飾ってあるから!」

「まじかよ……あんなん食うなんて、人間じゃねぇ」


 なんでだようまいだろ。※個人の感想です


 他にも同じように畏怖している人がいたが少数派のようで、大多数の人は拍手、指笛、歓声の嵐であった。


 ちなみに少数派の人たちは、同じ物を口にしたことがある愚か者である。味を知っているがゆえに、完食するという行為が人外にしか成し得ないと理解しているのだ。


「可愛くてウォーカー姉妹より強くてイフリートとか、最強かよっ!!」

「イッフリート!イッフリート!」

「ホワイトイフリート!俺たちのクランに入ってくれ!」

「は?テメェコラ、抜け駆けすんな!俺らが誘う予定だったんだぞ!」

「何言ってんのよ!彼女たちは私達のクランにこそふさわしいの!雑魚共は散りなさい!」


 そして始まる勧誘合戦。


 今朝も似たような光景を見たが、今回は熱烈さが段違いだ。実力を示してしまった影響である。


 間違いなく、このまま収拾がつくことはないだろう。俺はクロネに小声で相談した。


(これ、どうしようか)

(……ん?“あの二人のクランに入る“って言えばいいんじゃない?ていうかそこ以外選択肢ないでしょ)

(――ああ!)


 その手があったか!


 ウォーカー姉妹に文句を言える人間などここにはいない。この場では、彼女たちの威を借りるのが最善だろう。


 決心を固めて声を上げようとしたその時――


「――おい、あんたら」


 ドスの効いた声が響き渡った。


 その瞬間、目にも止まらぬ速さで囲いが飛び散る。そのおかげで視界が開け、声の出どころを特定できた。


「ウチらがおらん間に、ずいぶん好き勝手言ってくれたみたいやなぁ……」


 そこにはボロボロになったロゼとミシャの姿があった。


 外に出てからまだ数分のはずだが、すでに戻ってきたということは……チュリンとの勝負に速攻で負けたらしい。やはり、彼女の実力はEXランクの名に恥じないようだ。


「――ヴェールはんとクロネはんはウチらが先に唾つけたんやからなっ!」

「がるるるる!」


 ロゼが俺たちを背に立ちはだかり、ミシャは俺に抱きつきながら周囲を威嚇するように唸り声を上げる。


 ……あの、ミシャさん。腕に柔らかいものが当たっているのですが。


 俺はなるべく意識しないようにするが、努力虚しく、頭の中はそのことでいっぱいだった。元男には難易度が高すぎる。


 ちなみに、クロネがミシャの二の腕を抓って早く離れろという無言の圧をかけ、それに対しミシャはクロネの足を踏んづけるという争いが繰り広げられていたのだが、脳内リソースに一切の余裕がない俺には気づけなかった。


「ほら、部外者は散った散った!ウチらはこれから大事な用事があんねん!」

「がるる!」


 ロゼの一声により、全員が一目散に外へと飛び出ていった。ウォーカー姉妹に逆らえるものなどいないのである。


「よしっ、邪魔者はいなくなったし……換金タイムや――」

「――反省文タイムな?」


 全力ダッシュするロゼとミシャ。


 逃走を図ろうとするもあえなく首根っこを捕まれ、断末魔とともに奥の部屋へと連れ去られていった。


 (……南無)


 俺は寂しくなった空間のなかで、彼女たちの無事を祈った。






 ☆★☆★☆






 クソババアから解放されたあと、魔物を換金し、皆で食事を取った。


「奢ってもらって、ホンマすまんな」

「……お陰で懐が温かいですし、これくらいは」

「ありがとうなヴェールはん」

「ヴェールちゃんありがとー」

「いえいえ。それではまた明日、よろしくお願いしますね」


 そう言って背を向けて去ろうとするヴェールとクロネ。ウチはその背中を慌てて呼び止めた。


「――あ、待って二人とも。渡したいものがあるんや」

「はい?」


 二人が振り返ると、ウチはそっと手の中に用意しておいたものを置いた。


「ほい、これや」

「ああ、クランバッジですか……ってうぇえ!?」


 ヴェールは黄昏色の波動が揺らめくバッジを見て、驚きの声を上げた。


「こ、これ大丈夫なんですか!?」

「ん?なにがや?」


 ウチはヴェールの質問の意図が全く分からなかった。だが、その疑問はクロネが察して答えた。


「……ああ、これは人工波動珠(AMWIG)だから大丈夫。MWIGと違って魔物には感知されないやつ」

「え、あ、これがAMWIG(アムウィグ)かっ!」


 彼女のその発言には驚きを隠せなかった。


「なんや、見たことなかったんかいな。今時珍しいなあ、アクセサリーのド定番やのに」

「あ、あはは……」


 ヴェールは恥ずかしそうに頭を掻いた。


「ちなみにそれ、今のところ世界に五つしか存在せーへんからな。激レアやで!」

「おおすごい!私そういうの大好きです!」

「え」


 ヴェールの反応に思わず固まった。


 いやここは、クランメンバー五人しかおらへんのかーいとツッコミを入れる場面なのだが。


「……はあ」


 クロネはため息をつき、やれやれと肩をすくめていた。


 やはりヴェールはどこか抜けているようだ。


 さて、今度こそ彼女たちと別れの挨拶をし、お互い帰路についた。


 彼女たちと少し距離が空くと、どっと疲れが押し寄せ、思わず溜め息が溢れた。


「はあ、あんのクソババァめ……一時間も拘束しよってからに」

「ホンマ、バケモンやねあの人。一生勝てる気せんわ……」


 今日だけで三人に敗北している。その事実が、今までの有頂天気分を綺麗さっぱり消し去っていた。


「……ウチら、まだまだやな」

「……せやな」


 ヴェールとの契約、早まっただろうか。


(……いや、金は大事や。ヴェールはんがあの提案してくれへんかったら、ミシャがどうなってたか……)


 そう考えるとゾッとする。


 ライバルであるクロネにお金が集中すれば、ミシャが固執している“ランキング一位“という称号を失ってしまう可能性がある。そうなればもう何を仕出かすか一切想像がつかない。ウチの妹はマックスちゃんに人生を捧げているといっても過言ではないのだ。


「いや、チュリンさんはええんよ……問題は――」


 ミシャは拳を握りしめ、静かに声を震わせる。


「――よりにもよって……あの、あのクロネっちに“全部“取られたんがホンマ腹立つううう!」

「……ん?」


 ああ、そうか。暴走時の出来事やから知らないんやったわ。


「ミシャ、クロネはんが倒したのは半分だけやで」

「……へ?」

「もう半分はヴェールはんや」

「そうなん!?」


 ウチはその時の様子を事細かに教えてあげた。


 話を進めるごとに、ミシャの目が輝き始める。


「――それでそれで!?」

「おう。ソラバナの“レプリカ“取り出してな、エッッッグい魔法放ちよってん。――“徒なる六ツ花“!つってな!」

「おおおおおおおお!」

「あの技名まで叫ぶなんて、ありゃ相当な皇帝陛下オタクやで」

「最高やん!めっちゃ最高やん!うわぁ、ウチも見たかったあああ!」

「心配せんでも明日いっぱい見れるやろ。ラストキルはヴェールはんに譲る約束やし」

「確かに!うわぁ、楽しみすぎて寝れへんかも……実はホンマにマクス様の生まれ変わりやったりせーへんかな……リアルマックスちゃん……うへっ、うへへへへへへへへへ」


 そう言い残して自分の世界(妄想ワールド)に旅立つミシャ。こうなってしまえば、満足するまで戻ってこないとウチは知っている。会話はそこで打ち切った。


(……ホンマに生まれ変わってたら、今頃大騒ぎやっちゅうねん)


 ミシャの現実味の無さすぎる発言に、ウチは心のなかでツッコミをいれた。


(まああの魔法を見たら、本人や言われても納得してまいそうやけどな……)


 掘り起こすのは夕刻のあの光景。ウチよりも圧倒的強者であるとまざまざと見せつけられ、理解したくないと現実から目を背けて考えないようにしていた。


 だが、そろそろ向き合うべきだろう。ウチにだって向上心はちゃんとある。


 ウチらよりも幼いあの歳で、あそこまで強いのだ。相当特別な努力をしているに違いない。何か盗める技術(もの)があるはず……


(んー、でもなぁ……)


 ぶっちゃけ凄すぎてほとんど理解できていない。途中の剣舞など、目で追うのがやっとだったのだ。


(――うん、無理やな)


 しばらく考えた後、すっぱり諦めた。理解できたのは、間違いなくチュリンよりも強いということだけ。


(ホンマわけわからんわ……なんなんあの強さ。ランク詐欺やろ……一体何種類の魔法が使えたらあんな芸当ができ――)









































 ――あれ???


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ