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悪魔皇帝は玉座に座らない  作者: はむだんご
やっぱり苦いのは嫌いです
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ありえない……何だこの街は

 

 夜になったら隠れて街を出る。


 それが俺の立てた計画だ。俺が悪魔としての今後の身の振り方を考えるにあたって、検証したことがいくつかある。


 まず最初に確認したのは、”魔法が使えるかどうか”だ。非常に重要な確認である。魔法は俺のアイデンティティそのものだからな。


 結果を言うと、全属性問題なく使えた。ただし、使える魔法はかなり制限されていた。


 というのも、どうやらこの体は魔力制御が苦手なようだ。恐らくこの体の前の持ち主は、ほとんど魔法を使ってこなかったのだろう。そのため魔法の威力は小さく、高度な魔力制御を要する大魔法も使用出来なくなっていた。


 それでも問題はない。魔力制御は魔法を使い続ければ成長する。女神に教えてもらった最速の育成法も頭に入っているから、半年もすればそれなりの魔法を使えるようになるはずだ。


 ただ、一つ気付いたことがある。魔法を使うときの波動が、以前の空色から蜃気楼のような透明色に変わっていた。この体の適性属性が虚無属性だったのだろう。


 つまり、俺のアイデンティティでお気に入りだった空色の波動は失われてしまったようだ。まあ残念だが仕方ない。こんなことで悲観している暇はないのだ。


 それにメリットもちゃんとある。波動がほとんど見えないというのは魔法戦において大きなアドバンテージになる。相手に魔法の発動タイミングを悟られにくいからな。やはり色付きの波動は目立つ。……うん。


 …………嘘です強がりました。辛いもんは辛いです。正直泣きそう。


 それはさておき、次の検証。”どれだけ幻惑属性魔法を使い続けられるか”だ。


 やはり尻尾を隠すならこの魔法が一番だろう。体全体を隠すのは精度が悪過ぎて難しいが、尻尾だけなら何とかなる。まあ、そこそこ幻惑に慣れている人が見たら一瞬で見破るだろうけど……。そんな人物と出会わないことを祈るしかない。


 それはそうとして、どれだけ魔法を使い続けられるか、その検証結果だが、恐らく、ずっと使い続けられる……と思う。


 俺もビックリしたんだが、なんとこの体は魔力を使ったそばから回復していく特殊体質みたいだ。もしかしたら噂に聞く天賦(スキル)持ちというやつかもしれない。現に検証開始から今まで尻尾に幻惑魔法を使い続けているが、全く魔力が切れる気配がない。まあそのせいで魔力容量(キャパシティー)を把握することは出来なかったが。俺はとんでもない身体()に憑依してしまったのかもしれない。


 そして最後の検証だが、以前使っていた”亜空間倉庫の使用が可能かどうか”だ。


 これは虚無属性と時空属性の混合魔法である自己定義空間魔法のことで、空間の大きさ、内部の時間の進み具合、空気の有無など自由に設定出来る。ただ皆倉庫としてしか使ってないから、亜空間倉庫と呼んでいる。その方が分かりやすいし。


 で、この亜空間倉庫だが、この体でも以前作った倉庫にアクセス出来た。


 これは非常に嬉しい。今まで使っていた装備や素材、食料(主に魔物の肉)などが入っていて、これだけあれば数年は人に会わずに生活できる。街を出た後もしばらく困らないだろう。


 というわけでこれら3つの検証結果を踏まえ、街を出てひっそり暮らしていくという選択をした。外敵を跳ね除けられるだけの魔法(ぶき)があり、一人でも生きていけるだけの食料があるからだ。


 そして少しでも隠れて行動出来るように夜を待ってから移動するという結論に至った。魔法の精度不安を補うためだ。尻尾が黒色だから万が一幻惑魔法が見破られても、夜であれば視覚的になんとかなる可能性がある。まあ限りなく薄いが……ないよりはマシだ。


「今は夕方くらいか」


 上を向き、建物の隙間から覗く空の色を見てそう判断する。


「はぁ、ここどこの国だろう……」


 建物の形状、材質は見たことのないものだった。もしかしたら元の世界とは違う世界に来てしまった可能性すらある。


「……いや、今それを考えるのは止めておこう」


 皆無事だといいんだが。


 今いるこの場所は、ありがたいことに俺が目覚めてから一度も人が通っていない。しかし油断は出来ない。仮に人が通ってもいいように、幻惑魔法を今出せる最大出力で使用し続ける。幸いにも魔力は無限に湧いてくる。集中しなければ。






 ☆★☆★☆






 夜になった。運が良かったのか、結局この道を人が通ることはなかった。


 まあここ狭いしな。道と言っていいのかわからないレベルだ。普段から使う人はいないのかもしれない。


「さて、行くか」


 亜空間倉庫から取り出した黒めのローブを羽織る。夜になってワンピースだけだと肌寒いからな……ちょっとブカブカなのはご愛嬌。尻尾を物理的に隠しつつ、ついでに夜闇に紛れられたらラッキーといったところだ。尻尾がツンツンとローブの後ろを押し上げてて違和感半端ないが、まあいいだろう。


 立ち上がり空を見上げる。建物の隙間から覗く空は真っ暗だが、どこかぼんやりと明るく星は見えない。近くに大きな光源があるのだろう。先程からたまに話し声や足音なども聞こえてくる。注意しなければ。


「まあ、ルートに関してはノープランなんだけど」


 どこにいけば街の外に出られるのかは正直わからん。なにせ迷子なのだから。人の多い道は避けつつ、適当に歩くしかない。


「右、まっすぐ……次は左にしよう」


 分岐路は直感で選ぶ。そんな感じで歩みを進めた。


「――!?やばっ!」


 しかし運悪く大通りに出てしまった。街灯が道を明るく照らしている。人通りも多い。


 ガヤガヤと色んな人の話し声がする。これだけ明るいと見つかるのも時間の問題だ。


「…………………は???」


 今すぐここから離れないと。だというのに足が一向に動かない。


 眼の前に広がる光景が、衝撃的過ぎて。


「ありえない……何だこの街は」


 様々な動物の一部の特徴を持つ獣人族、森を愛する引きこもりのエルフ族、金属を愛する偏屈なドワーフ族、またそれらを亜人だの劣等種だのと罵る人間まで。全員がまるで同じ街にいるのが当たり前だという風に、気にすら留めていない。


 それはマクス・マグノリアが調停者として追い求めて止まなかった、戦争のない平和な世界。夢にまで見た理想郷がそこにはあった。


「すごい……」


 本来の逃げるという目的すら忘れ、ただただ眼の前の光景に魅入られていた。


 そのせいで、背後からの接近に気付けなかった。


――ドンッ


「へっ?ヘブッ!?」


 一瞬何が起きたかわからず、気付いた時には、ビターン!と地面に倒れてしまっていた。


「あっ、す、すまねぇ嬢ちゃん!大丈夫か?」


 い、いてて……おでこぶつけちまった。


「んあ?ヒック……どうしたんらぁ、兄弟?」

「ああ、人にぶつかっちまってな。あと兄弟、お前は飲み過ぎだ馬鹿野郎」


 体を起こし、後ろを向くと2人の獣人族の男が肩を組んで立っていた。


(でかっ!?……いや俺が縮んだだけか)


 ぶつかってきた2人組が大きく見えた。今の身長は多分140くらいなので、20程度縮んだことになる。身長が変わるだけでこんなに視点が違うのか。


 って、驚いてる場合じゃない早く返事しないと。


「す、すいません突っ立っちゃってて」

「いや、こっちこそ悪い、前見てなかった」


 お互いに非を認め、謝り合う。何気ない会話の一幕だが、人間(悪魔)と獣人がこの当たり前の流れが出来ていることに俺は感動していた。


 俺の記憶の中の人間と獣人が同じことをすれば、間違いなくお互いに唾を吐き合い、周囲を巻き込んで乱闘に発展する。嘘だろ、と思うかもしれないがマジである。


(てかこの人たち、よく見たら犬族と狼族じゃん!?)


 犬族と狼族は見た目が似ているせいでよく間違われ、お互いにそれを嫌がっているため、それはもう険悪な仲なのだ。


 だというのに、目の前の二人はそんなことを気にもせず、お互いに兄弟と呼び合っていた。


「すごい、すごいっ!」

「「???」」


 男二人はお互い、「何だこいつ?」、「さあ?」と疑問符を浮かべながらアイコンタクトしていた。当然の反応である。


「って、じょ、じじじじ嬢ちゃん!?!?それ!その怪我!大丈夫なのかっ!?」

「へ?」

「その胸の怪我だよ!!!」

「胸?……あっ!」


 自分の体を見るとローブがはだけて、下に着ている血塗れのワンピースが見えていた。


(や、やばっ!全然気づかなかった!てか時空魔法で直せただろ何やってんだ過去の俺!?)


 そう後悔したが後の祭りだった。


「だだだ大丈夫です!結構浅いですし、もう治ってますから!!」

「いやいや流石にヤバいだろそれ!え?……あれ?でも普通に元気そう?」

「そうそうそう!トッテモゲンキデスヨ!」

「お、おう。ならいい……のか?」


(な、何とか乗り切れたか!?)


 そう思ったのもつかの間で……


「ねえ見て!あれ悪魔じゃない!?」


 あ。


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