とある女の子の事情
ある少女のあるひと時。そんな情景を思い浮かべて頂ければ幸いです。
小説 とある女の子の事情
あたしは走っていた。もう、それは一目散に。え?何かから逃げてるのか?いや、そう言う訳じゃないんだけど、まあ、とにかく急いでいたのよ。
走りまくって、そこの角を曲がり目的地はもうすぐ。息は続かないかと思うくらい走ってたけどようやく着きそうだった。
「やっと、まに・・・あい・・・そうね・・・。」
喋るのもしんどい位走っていたんだっけ。ふう。ちょっと一休み。公園に来たから少し気持ちよくなったな。
うん、いい風だ。って!そんなことしてる場合じゃないや。急がないと。あたしは再び走り出した。
公園のベンチでは男の子が一人寂しく座っていた。時折ポケットから携帯を出しては時間を確認する。
「おかしいなぁ。あいつ、何時もは10分前には来てるのに・・・。」
そうぼやいていた。そこへ、息せき切りながら女の子がやってくる。
「ご・・・ごめん・・・御兄ちゃん。あ・・・あたし・・・急いだんだけど・・・間に合わなくて・・・。」
急いでるあまり息が続かず台詞も途切れ途切れになっていた。苦笑しながら男の子が言う。
「綾、無理して来なくて良かったのに・・・。別に今日会えないからって世界の終わりって訳じゃないんだし。」
そう言われて綾と言われた女の子は答えて言った。
「な、何言ってるの!今日御兄ちゃんと会えるのは今日だけなんだからね!何時も大事にしないといけないって御兄ちゃんも言ってるじゃない。」
「ま、まあそうだけどさ。でも、そこまで無理をしろとは言わないぞ、僕は。」
「わかってるわよ。これはあたしがしたくてしたんだから。」
そう言って綾と言われた女の子は男の子に抱きついた。それに躊躇しつつ男の子が言う。
「おいおい、綾。公園のど真ん中でそんな事をして誰かに見られたらどうするんだ。」
「大丈夫よ~。兄妹のスキンシップじゃない。」
そう言いつつ女の子は男の子に甘えていた。諦めたように男の子が言う。
「相変わらずだなぁ。まあ、そう言う綾も可愛いけどな。」
そう言いながら、男の子は女の子の頭を撫でていた。
「え?それってどういうこと?勇気御兄ちゃん。」
あたしは御兄ちゃんの言うことが理解できなくてそう聞いていた。今あたしは御兄ちゃんと一緒にベンチで座って御兄ちゃんが用意してくれていたペットボトルの飲料を口にしながら喋っていた所だった。
「あ~。つまりだな。僕も今度やっと狙ってた高校に推薦で行けそうに為ったんだよ。」
「すごいじゃない。」
「ああ、苦労した甲斐があったよ。あそこには、裕二の奴も行くしな。出来れば一緒に行きたかったし先生からそう言われた時は嬉しかったさ。」
「で、その事とさっきの話がどう繋がるの?」
「あ~。綾、すまない。実は僕の行きたい高校はここから少し離れているんだ。」
「え??」
「つまり、今のようにこうやってお前に会うことが出来ないかも知れないんだ。」
「え??」
「突然こんなことを言うのは悪いんだが・・・前々から行こうと考えてた事なんだよ。お前と天秤に掛ける訳じゃないがどうしても行きたかったんだ。ごめん。」
そう言って御兄ちゃんは深々とあたしに謝った。あたしは暫く呆然としていた。どう答えていいか分からなかった。暫くしてあたしは泣いている事に気が付いた。
「お。おい、綾・・・。」
御兄ちゃんはそう言いながらおろおろしていた。相変わらずあたしの涙には弱いらしい。
「あ、ごめんなさい。別に御兄ちゃんを困らせようとしていた訳じゃないのよ。でも、やっぱり悲しいから。そうか・・・寂しくなるね。」
「ああ、僕も寂しいよ。お前の可愛い姿が見れないなんてな。」
そう言われて、あたしはつい顔が赤くなっているのが分かった。
「な・・・こんなときにそんな事を言うなんて卑怯よ、御兄ちゃん!」
そう言ってあたしは誤魔化す。御兄ちゃんは済まなそうに言った。
「悪いってば。謝るから許してくれ。早く言えば良かったのに今更に為ってからだしな。僕が悪かったよ。しかし、さっきの気持ちは本当だぞ。」
「う、うん。」
そう言われてあたしは嬉しかった。御兄ちゃんはあたしの頭を撫でつつ言う。
「そうだな、今みたいに毎月とは行かないけれど大きい連休の時とかに一緒に過ごせたらいいな。」
「うん、そうだね。」
あたしは御兄ちゃんに身体を摺り寄せつつ答えた。ふと思い出して言う。
「そう言えば、勇気御兄ちゃん。おばさん達はもうそれって知ってるの?」
「いや、帰ってから話すよ。お前が口外するのは最初だよ。」
そう言われて、あたしは嬉しくなった。あたしが最初。あたしが大事。とても嬉しい。顔が火照って赤くなっているのが分かった。
「えへ。嬉しいな。」
あたしはそう言って御兄ちゃんの身体に顔を埋めてみた。いい匂いがする。何時もの御兄ちゃんの匂いだ。御兄ちゃんは汗臭いからと言うけれどあたしはこの匂いが好きだった。
「お、おい、綾・・・。」
そう言って御兄ちゃんはあたしを優しく抱いてくれていた。
「寂しくなるね。」
帰り際にあたしは御兄ちゃんにそう話し始めた。
「ああ、でも、電話は定期的に今まで通りするさ。」
「うん、待ってる。忙しいならメールでもいいからね。」
「ああ、分かってるよ。お前も無理するなよ。おばさんが言ってたぞ。この間無理をして・・・。」
そう御兄ちゃんが言いかけたのであたしは遮りつつ言った。
「あ~。それ以上は言わないでいいってば。あれは、あたしが無茶しすぎたのは認めるわよ。でも、母さんも過保護過ぎるんだもの。少しは羽目を外したくなるわ。」
「いや、気持ちは分かるけど、綾、お前はそんなに身体が強いわけじゃないし・・・。」
「そうだけど!今では頑張って、今日みたいに走れるようになったんだよ?それだけでも進歩じゃない。」
「ん~。まあ、それはそうなんだけどな。本当に、無理だけはしないでくれ。僕にとっても綾は大事だからな。」
「うん・・・。」
御兄ちゃんはそう言ってあたしの頭に手を置いた。その手の感触がとても気持ちよかった。
「それはそうと、綾、お前学校は頑張ってるのか?」
「う・・・それはその・・・。」
「だめなのか?」
「あ、いや、そうじゃなくて・・・。」
「どうした?」
「成績は問題ないんだけどね。素行が悪いって怒られちゃった。」
あたしが舌を出してそう言うと御兄ちゃんは顔に手を当てながらこう言った。
「お前・・・相変わらずだなぁ。僕と出会わなかったらどうなっていたか想像するだけで怖いぞ。」
「やだ。そんな事言わないでよ。」
「少しは頑張れ。いきなり皆に合わす事は無理でも好きな友達位なら出来るだろう?」
そう言われてあたしはうん、と頷いた。それを見て御兄ちゃんは背中を優しく叩きながら言う。
「何、急ぐことはないさ。焦って転ぶよりかは少しずつ前に進むほうが賢いってものさ。」
「うん、あたし頑張るよ。」
やっぱり、御兄ちゃんはいいな。居るだけで気持ちが良くなる。話してると嬉しくなる。大事な、大事な、大事なあたしの御兄ちゃん。
あたしはステップを踏みつつもうすぐお別れになる駅に向かっていた。
電車はもう居なかった。お兄ちゃんももう居ない。電車に乗って向こうの街に行ってしまったから。
「急に寂しくなったな。」
そう言いながらあたしは駅のホームを出るところだった。ふと、外を見上げる。
ネオンサインがいろいろに輝く中、ビルの合間に大きな月が見えた。丸い満月だ。
日頃街中で見えない位なのに今日ははっきりと見える。
「不思議なこともあるものね。何時もは見えない月がこうも綺麗に見えるなんて。」
ふとあたしはそう声を出していた。やっぱり寂しいよ。お兄ちゃんが傍に居るほうがいいよ。でも、それはあたしの我侭だよね。
分かってはいるのだがそれでも自分では我侭を通したくなる。でも、そんな事をすればまた御兄ちゃんを悲しませる事になる。それはしたくはない。
「あ~。もう!どうすればいいのよ!」
つい、怒鳴り声を上げてしまう。それを聞いて駅前に居た人があたしをじろじろ見る。あたしは恥ずかしくなって走り出していた。
家に着くと携帯にメールが入っていた。
「綾へ。無事僕も家に着きました。綾も、道草せずに帰ったかな?次に会える時は少し先になるけれど、無理をせず待っているように。」
メールにはそう書かれていた。無理をせず・・・。なんて無理だよ~。
あたしはそう思いながら自分の布団に寝転がった。
「御兄ちゃん。早くあたしも一緒住める様になりたいな・・・。」
そうだ、返信しないと。あたしは急いで携帯のメールを打ち始めた。
「大好きな御兄ちゃん。会いたいけれど、あたしは我慢します。また会えるときを楽しみに。愛してる♪」
ふと、想像して文章にしてみました。もう少し表現が増やせればいいのですが、これが中々。語彙を増やさないと駄目ですね。ご感想があれば是非御願いします。