真剣勝負!
晋作は私のことどう思ってるんだろ?
おととい……キ、接吻してから、ずっと気になってる。
なんか、あのときはちょっと私ヘンだった。
いつも晋作にヘンタイって言ってるけど、私がヘンタイだったかもしれない。
昨日は、晋作の家に行ってない。
行こうと思ったけど、けっきょく公園のタコの遊具の中で何話すか考えてたら夜になってた。
だから今日は会いたい。今日も会わなかったら、いっしょー会えなくなる気がする。
確か今日は、晋作の学校で文化祭がある。
名倉桃子と名倉真一郎も行くみたいだった。名倉桃子は、かなり名倉花香のことが好きっぽい。名倉花香は、子供のフリが上手いから。
でも最近、名倉花香のギタイが、ちょっとテキトーになってきてる。たぶん晋作が原因だと思うから、イヤだった。
名倉桃子は名倉花香に振り向いてほしいのか、最近はあっちに構ってばっかで私に文句を言ってくることが減ってきた。
たぶん、私があんまり家にいないのもあると思うけど。
名倉真一郎は相変わらずよく分かんない。何も話さないから。でも、名倉桃子は名倉真一郎が何も話さないから好きらしかった。
名倉桃子はワガママと文句ばっかりで人の話とか聞かないから、何も話さない人が好きなんだと思う。
私、なんであの人から生まれてきたんだろ?
キライ! キライ! キライ!
やっぱ、晋作だけいれば良いと思った。晋作だってホントは、私と二人だけになりたいと思ってると思う。
私はピンクのスニーカーを履いて、晋作の学校の方に走った。
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綾加は、ケッコーちゃんと接客できてたと思う! 最初に来たお客さんも、本を見ながら綾加が持っていったジュースを飲んでいる!
不安だったから、昨日寝る前に接客の練習しといて良かった。
チラッと先輩を見てみると、メイド服には慣れていない筈なのに、いつもと全然様子が変わらない。ソンケー……!
綾加だったらゼッタイ恥ずかしくていつも通りにはできないと思うから、先輩はスゴい。
綾加はやっぱり、先輩が好き!
先輩と初めて会ったのは、体育祭の応援練習前日だった。最初はイヤな人だと思ったけど、綾加を応援してくれた。
今までは、綾加が正しいコト言ってもメンドクサそうな顔する人ばっかりだったから、先輩の応援がスゴく嬉しかったのだ。
先輩は、失敗した綾加にも優しかった。図書室に居場所をくれて、綾加のみたいなヤツを苦手そうにしながらも相手してくれた。そんなの初めてだった。
ずっと綾加は嫌われてた。空気が読めなくて、頭が悪くて、運動ができなかったから。それってケッコーサイアクで、学校なんてもちろん楽しくない。
プリキュアが好きなコトとか隠してるのも、正しくなくてイヤだった。
文芸部のみんなが好きだ。先輩はもちろん、平川先輩も芥屋先輩も綾加に優しくしてくれる。名倉先輩は良く分かんないけど、前に読めない漢字を一緒に調べてくれたから、たぶんイイ人だと思う。
本トーナメントも、綾加はずっとダメダメだったのに先輩達は助けてくれた。絶対成功させたい!
綾加は気合を入れ直して接客する。お客さんは多いけど、ガンバレば大丈夫!
そうやって仕事に集中してたら、もう本トーナメントまで30分だった。
「綾加君、呼び込みに行かないか?」
「あ! 行くっす! 先輩はメイド服のままで行くんすか?」
綾加が尋ねると、先輩は少し嫌そうにしながら頷いた。
「……まあな、着替えるのも面倒だし。何より目立つだろう? 宣伝が目的なのであれば悪くない手だ」
「じゃ、呼び込み用の看板取ってくるっす!」
教室の後ろに置いてある、棒付きのホワイトボードとマジックペンを持って先輩の下に戻る。
「看板、なに描けばいっすかね?」
「まあ、無難に出店名とその場所を書けば良いのではないかな?」
フツーの答え。もちろん、バカな綾加でもそれくらい分かってる。でも、ただ話したかっただけだからこれで良い。
「わかったっす!」
綾加はちょっぴり勇気を出して、ホワイトボードにアイアイガサを描いた。ジョーダンっぽく、だけど本気で。
「綾加君、そろそろ行くぞ」
「はいっす! この看板持って学校中歩き回りましょうね! 先輩!」
「それでダメージを受けるのはどちらかと言うと君の方だろう。ほら、客を呼べるように書き直して」
「はーい」
先輩は当然のようにジョーダンと受け取ったみたいだった。良かった。良くないですケド。
改めてアイアイガサを見ると妙に恥ずかしくなって、バババッと消してちゃんとした看板を書き直した。
そのまま、恥ずかしさを吹き飛ばすように声をあげる。
「野外ステージ裏、部活棟で文芸喫茶やってまーす! 本トーナメントもしまーす!」
綾加に続き先輩も声をあげる。
「豪華景品もあるので、奮ってご参加ください! 野外ステージ裏の、部活棟2階です!」
意外と通る声なんだ……
先輩が大きな声を出しているのを見るのは初めてだったから、少しだけビックリした。
「文芸喫茶やってまーす!」
「部活棟2階です!」
二人で大声をあげながら、中庭や校舎内を歩き回る。一緒にお店を見て回っているわけでもないのに、今までで一番楽しかった。
「先輩……!」
「ん? どうかしたかな?」
「先輩、シフト終わったら二人で文化祭まわらないっすか?」
ドキドキしていた、フツーの感じで言いたかったのに声がカスれてた。なんか先輩の顔を見れなくて、どこを見てるのか分かんなくなった。
「……二人で? 他の文芸部員と一緒ではいけないと? 何か理由があるのかね?」
先輩はいつもと違う調子で聞き返してくる。なんだか様子が変だった、でもそれ以上に私の様子が変だった。
心臓がバクバクして、わけ分かんないことを言ってしまいそうだった。
「先輩が、好きなので……! あっ!」
告白しちゃった、スゴく真剣に!




