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尾瀬信之は前回とは違い、所長に神妙な面持ちで相談にやってきた。

 尾瀬信之 その5

「尾瀬信之、奴さんお出ましだぞ、俺一人で対応するから、いつも通りに仕事をしてくれ。ただし皆んなはいない振りをして、静かにしていたほうが彼も安心できるだろうから、絶対顔なんか出しちゃだめだよ。ただ暴力を振るって来た時は叫ぶから助けてくれ。来た来た皆んな頼むよ」

 所長はなぜか自信ありげに構えている。

「所長さんこないだはどうも、あれーーっ、他にはだれもいないみたいですね。ちょうどよかった。僕がここに来たことは誰にも悟られないようにお願いします。だから、長くは居られないんで」

 尾瀬は前回来たときと打って変わって、神妙な面持ちで事務所に入ってきた。

「尾瀬君、此処でいいのかい。それとも何だったら面接室があるからそっちで話そうか」

 時間がないのでと所長の事務机の反対側に、空いている職員の椅子を寄せて話をすることにした。

 尾瀬の誰かにピリピリした光景に、所長はこの男は誰かに操られてこんな振る舞いを続けているが、本当は善人なのでは感じていたのである。

「所長さんを信じて相談をします。実は高畑と打田と僕は、例の栗山さんの指示で悪を装っているんです。僕はもうこんなことは止めて自分らしく普通の人間でいたいんだけど、これは闇の軍団を欺くための手段なんです。此処にいる藤城君もつい最近僕らのメンバーに加入して、栗山さんの指示で動いてるんです」

「だから、この間来たとき外で待ってたメンバーの中に栗山さんと藤城君もいたんだね。こっそりカーテン越しに見た時、何で藤城君がいたのか不思議に思ったんだ。もしかしたら君たちを含め、藤城君も闇の軍団の仲間じゃないかと疑うところだったよ。でも、どうして君達は市役所中に反感を買うような悪を演じて、それが闇の軍団に対抗するような行動に繋がっているですか」

「市役所内部で表の顔は市の職員として普通に仕事をしていながら、絶対誰にも正体が分からないよう仲間同志で連絡を取り合って活動をしてるんです。それが分かっていても全く見つけ出すことが出来ないんです」

「尾瀬君、君は日々それを暴くためどうやって活動をしているんですか」

「実は先日ここへ来て所長さんと話しをした時、僕の親父とは違う不思議な感覚を覚えたんです。親父は僕を大事にしてくれるんですけど、腫物を触るように何か悪いことをしても一度も怒ったことはないし、なぜかこの人本当は他人じゃないのかって、疑いたくなるようなやさしさで接してくるんです。本当は有難い話ですけど、いつもどこかに心が通わないさみしさが漂っているんです。でも所長さんは僕の親父だったらと何でも話してみたくなったんです」

「僕をそんな風に見てくれるのかい、でも先日の態度は恐ろしかったよ。一つ間違ったら殺されるんじゃないかって」

「それは大変失礼をいたしました。所長さんは僕たちの味方だと思っているのでもう大丈夫です」

 所長は彼のその言葉を聞き、ようやく落ち着いて話せると思った。そして彼が一瞬上を見上げた時あごの下に隠れているほくろを見つけて驚いた。正に自分と同じ場所にある。そして彼の顔を見つめたとき体中に汗が噴き出るのが分かった。若い時の自分にそっくりなのだ。意識的にオールバックの髪を前に垂らし、外していた眼鏡をかけて彼が気づかないようにあごを引いて話しを続けた。

 尾瀬信之は前回と打って変わり、自分の父親より所長の方が親父らしいと親しみを感じており、何か相談事があるようで事務所へ訪ねてくる。二人にはまだ気づいていない秘密の過去があるようだ。

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