南地区商店街振興組合理事長の山田和夫は、家系が建設会社から元の暴力団に様変わりし、自分がその組長として後を継ぐことになったが、先代達が謎の死を遂げ、自分の身に危険を感じ、飛騨高山に逃れてきた。
尾瀬信之 その3
尾瀬が再度階段を降りて行った。ほどなくパトカーが3台と遺体搬送車が1台連なってやってきた。先頭の車から降りてきたのは高畑巡査部長だった。
「橋の下に死体があるって子供達の通報で来たんだけど打田さんは知ってるの。現場は何処ですか」
「高畑巡査部長。散歩してたらこの中橋の下の草わらに死体があるって、あの子供達が教えてくれたんです。先に尾瀬先生を呼んできたので、今現場で検視をしてもらってます」
「さすが打田さん。手慣れたもんだ。あれーーっ、あっちにいるのって藤城さんだよね。一緒に警察官の試験受けたのに、僕だけ受かっちゃったから申し訳なくって、藤城さん久しぶり元気だった?」
「ああ、特に変わったことはないよ」藤城は元気なく答えた。
「高畑巡査部長、藤城君が子供達の前で震えちゃって、あのみっともない態度、警察官にならなくって良かったよ。あんな風じゃ受かりっこないに決まってるよ」
「打田さん、そんな言い方は藤城さんに悪いでしょ。高校生当時彼は柔道をやって随分強かったみたいだし、今と違って体もたくましく、試験の準備もしっかりしてたから受かって当然だったんだ。ところが当日体調が悪くて実力を発揮出来なかったんだよ。そういう事情を知らないで君は何でもはっきり言うから気を付けたほうがいいよ」
藤城はその後難病の一つであるパーキンソン病と診断され、普通の暮らしに支障をきたし、やむなく警察官の道を諦めていたのであった。
高畑は打田に前々から言っておきたいことがあるようで、話しを続けた。
「そして君さぁ、一緒に飲みに行くと店に入るなり僕を“警察”“警察”って呼ぶでしょ。プライベートで行ってるのに、店のお客さん知られるとちっとも飲んだ気にならないじゃないか。今度そんな風に呼んだら僕は怒るよ。皆んなの前で逮捕して手錠を掛けちゃうから、いいね」
「えーーっ、分かったよ。そんな恥ずかしいことされたら、もう外なんか歩けなくなっちゃうじゃないか」
「僕は今日は夜勤明けだから帰って寝ようと思ったのに残念、いつもこんな風に予定が狂うのさ。じゃあ今から僕も現場を見てくるから、もし今夜皆んなの都合がよかったら同級生4人で飲もうか」
「高畑巡査部長、何やってるんですか。皆んなが部長を待ってますよ。早く来てください」
部下が呼びに来るなり、あわてて高畑は下へ駆けて行った。
気が付くと、橋の上には野次馬と思われる観光客や地元住民でごった返して大騒ぎとなっていた。
しばらくすると、下からビニールシートにおおわれた死体が2体、タンカーに乗せられ上がってきた。
亡くなったのは、南地区商店街振興組合の山田和夫理事長夫婦であり、死因は劇薬のタリウムを使っての自殺だと判明した。
その後分かったことは、山形県の暴力団の一つである川口系に所属する精鋭会は、曽祖父の時代上山市で最も栄えた組織であったが、祖父の時代から地域でも愛される建設会社に変身し、業績も順調に伸ばし県下でも5本の指に入る大企業として大躍進したのである。
しかし、その陰には威勢のいい若頭もおり、元の暴力団として暴れたいと常々組頭である社長にたてつくものも出てくるようになり、ある日会社で開かれた社員旅行中に社長は行方不明となってしまった。もっぱら下っ端の従業員に暗殺されたのではとうわさされていた。
その後を引き継いだ父親も謎の死をとげ、20歳になった山田和夫が後を注ぐことになったが、元の暴力団に様変わりをする姿に身の危険を感じ、学生時代から交際していた彼女佳代子と駆け落ちし逃げ伸びた先が飛騨高山だった。
その頃、高山でも一番反映している商店街の一角が、たまたま空き家となっており、小さい店舗ではあったが、居抜きのまま喫茶店として開店すると、二人は慣れないながらも愛想の良さからたちまち大人気の店として注目され、そして和夫の堂々とした性格から、いつしか理事長を任せられるほど商店街の誰からも信頼される存在となっていた。
うわさによると、全国に情報網を持つ暴力団を通じ、逃れた先が判明し連れ戻されるのも時間の問題となり、その場合は夫婦とも過激なリンチの末、命の保証は無いもの分かっているので、それを察して自殺したものと判明した。
理事長は逃れた先が判明されると連れ戻され、過激なリンチの末命の保証はないので、妻と共に自ら命を絶ってしまった。




