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尾瀬信之の出生の秘密が父親たちの登場で明らかになります。

尾瀬信之 その2

「大変だー、大変だー、大変でーす、大変でーす」

「藤城さーん、何を一人で焦っているんですか。ちょっと落ち着いたらどうです」

 まだ朝8時、打田はコーヒーを飲む楽しみを、いつしか自分のストレス解消の時間と決めて、毎週日曜日には馴染みの喫茶店へ欠かさず通っていた。藤城はたまたま古い町並みを散歩にと出掛けた帰りに、偶然打田に中橋で出会ったところだった。二人は小中学校と同級生ではあったが、打田にとってはほとんど記憶のないほど藤城は存在感のない男だった。

「あーっ、打田さんちょうど良かった。たった今、川から上がって来た子供達が、河原の草むらで人が死んでいるって騒いでるんです。あの3人です」

 打田は半信半疑で子供達に近づき、大きな声で問いかけた。 

「おーーい君達、人が死んでるって本当かい?」

「おじさーーん、ほんとうだよ、こわいよーーっ」

 そう伝えると、子供達は安心したように道路に座り込んでしまった。

「分かったよ、心配しないで、でも君たちは第一発見者だからお巡りさんが来るまで、お家に帰っちゃダメだよ。じゃーぁ藤城さんは警察に電話をしてください。僕は尾瀬医院の先生を呼んできますから。あれーーっ、藤城さん、そんなに震えて、どうしたんですか。子供達の前で恥ずかしいですよ、公衆電話は橋のたもとにあるでしょ、しっかりしてください」

 藤城は小さな声でつぶやいた。

「だって、警察に電話したことないんだもん」

「兎に角、藤城さんお願いしますよ。僕は先生を迎えに行ってきますから」

 打田は、尾瀬とも同級生で、いつも大した病気でなくても、暇さえあれば病院に入りびたり、患者を診察する尾瀬に待合室から大きな声で話し掛け、正直迷惑な存在だった。

「尾瀬先生ーーっ、大至急来てくださいーーっ、早く早くお願いします」

「打田君、今日は早くからどうしたんです。そんなに元気でどっこも悪くないのに、止めてください。こっちは起きたばかりだし、夕べの飲み会で頭がガンガンしてるんですよ」

「先生、ふざけないで早くお願いしますよ。中橋下に死体があるんです。急いでください」

「そんな大事なことなら早く言ってよ、すぐ準備するからそこのテーブルに置いてある往診用のカバンを持って先に行っててくれ、くれぐれも慎重にな」

「分かりました。じゃあ先に行って待ってます。警察が来る前に先生が立ち会ってくださいよ。鑑識の検分が先になったら、先生の立場が無くなるから」

「ごちゃごちゃうるさい、もう準備出来たじゃないか行くよ。あーーっ、往診用の道具ちらかして、落としたのか、あれほど慎重に持てって言ったのにダメじゃないか。バカ!」

「だって、カバンの口が開いてたんだもん」

「お前はいつも雑な男だから信用できないんだよ。俺が持って行くよ」

「ごめんなさい。チェッ、叱られちゃった」

 中橋に着くと、尾瀬はカバンを抱えて何もためらうことなく階段を降りて行った。

 打田も死体なんて今まで一度も見たことがないから、怖いもの見たさで一緒に行こうとしたが、邪魔はしてほしくないからと制されてしまった。

 まだ警察が来ていないことに気づいた 打田は、藤城に連絡したかと確認したが、結局子供達に任せたようで、それを聞いた打田は、さっき尾瀬にされたように呆れた顔で藤城の顔を見返した。

 気が付くと尾瀬がカバンを抱えて階段を登ってきた。先程持って来たより大きく膨らんでいる。

「尾瀬先生、持って来たよりカバンがパンパンじゃないですか。何を持って来たんですか。まさか死体からお金でも盗んだんじゃないですよね」

「何をバカなことを言ってんだよ。道具を組み立てるとかさばるんだよ。まだ足りないものが有るから持ちに行ってくる」

「今持ってきた器具では出来ないの、ちゃんと揃ってたじゃないですか、早くしないと警察が着いちゃうよ」

 思ったより尾瀬は時間が掛かって戻ってきた。診察用カバンは先ほどの半分ほど厚みで抱えてきた。尾瀬の誰にでも分かるようなぎこちない行動に、打田は絶対何かを現場から持ち去り、家に隠しに戻ったのだと疑って聞いた。

「尾瀬先生、さっきカバンはパンパンになっていたのに今はどうして半分になってるんですか」

「打田君はちょっとうるさすぎるよ。新品の器具に揃えたから古いやつと使わない器具を置いてきたんだよ。いちいち面倒くさいなぁ。もう一度下へ行ってくる」

尾瀬信之の出生の秘密が父親たちの同級生4人の絆を深めます。 

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