古田主任に藤城は、中田市長が同じ場所で突然消える事象に遭遇し、その原因を確かめるため動画を取るがそのビデオカメラを見知らぬ男に奪われ、紙くずのポイ捨て動画として投稿されたことを打ち明けた。
中田明人 その7
藤城はさらに声を落として話を続けた。
「先日行われた市長の2回目の記者会見で、暴露されたポイ捨て現場の動画、所長以外誰も見てなかったじゃないですか。僕がたまたま顔を上げたとき、画面に映っている満月が目に入ったんですよ。そうしたら月に小さな黒い点が見えたと思った瞬間、画面が真っ黒になったんです。ほんの一瞬だったから誰も気づかなかったと思うけど、それがずっと気になって仕方がないんです。主任は本当に信じていい人間なんですか」
「何を言うんだよ。君は俺の弟みたいで可愛くって仕方がないから、これからも職場が代わったってずっと大切な後輩として見守っていくつもりだから大丈夫だよ」
「じゃあ本当に信じていいんですね。話すのは躊躇しちゃうけど、どうしょう、やっぱり止めようかなぁ」
「じれったいなぁ。今日は何のための飲み会をしたんだよ。俺に聞いて欲しい話があるって言ったじゃないか。話したくないんなら俺帰る」
「分かりました。もうお話します。実は市長の動画を撮ったのは僕なんです」
「えーーっ、何で!」
「でも、投稿したのは別の人間がいるんです」
「それってどういうこと?」
「僕が友達と飲んで分かれた後、一人で帰りながら前を歩く市長を見つけたんです。まだ市長に声を掛けるほど親しくはないので、気づかれない程度の距離で後を歩いていたんです。しばらくすると突然目の前が真っ暗になり、市長が一瞬消えたんです。
僕はびっくりして足が震えました。その日はそれに関わると恐ろしいことに巻き込まれそうな気がして、逃げるように別の道から帰ったんですけど、市長の消えたことがどうしても気になって、秘書課の職員に市長が飲み会に出かけると思われるスケジュールを予め聞いて、その飲み会が済んで帰る頃を見計らって後を付けてみたんです。そうしたら必ず同じ場所で真っ暗になった瞬間、市長が消えることが分かったんです。それでどうしてかを調べるために動画を取り始めたんです。
よく警察24時で性犯罪の男がバックに穴をあけて、カメラを忍ばせて少女のスカートの中を撮ってる、あの方法で動画を撮ってみたんです。5~6回撮ってはみたものの、ほとんど同じものしか取れなかったんです。それでもう撮るのは今夜で最後にしようと歩いていたら、突然後ろから知らない男に襲われて、カメラ入りのバックを奪われたんです。
次の日仕事から帰ってユーチューブを見たら、僕の動画が投稿されていたんです。でも僕のこだわっている事象では無く、市長の紙くずのポイ捨てを問題視してのことだったのでちょっと安心はしたんですけど、誰の仕業か分からないまま今日に至っているんです。
まさか全国ニュースになるなんて思いもよりませんでした。市長に本当に申し訳ないことをしたと思っているんです。市長が犯人捜しをすることなく事を荒立てないために、記者会見で自分の責任であるかのように取り繕ってくれた事、感謝するしか有りません。でも、宝くじの動画は僕じゃなく、バックを奪った男が投稿したものだと思いますけど」
「今の話を聞いていると、市長の紙くずのポイ捨ては何の意味があるの?」
「でしょう、僕もそこがどうしても納得出来ないんですよ。でも主任に話してるうちに少し分かった気がしてきました。これは過去に僕が体験したことに結びついているんじゃないかって」
「何かミステリーを聞かされてるみたいで、ちょっとわくわくしてきたよ」
古田主任はテーブルに乗ってるグラスやつまみの皿を左右によけて身を乗り出し、頬杖を付く姿勢で身を構えた。
中田市長が突然消える事象は投稿された動画から見つけ出せるのか、藤城は古田主任に語りながら過去に体験したことと関係があるのではと気づき始めた。




