古田主任から飲み会に誘われた藤城は、小学5年生の時いじめに会い、万引きで補導された経験を話した。
中田明人 その5
「藤城君、最近浮かぬ顔してるけど、何かあった?、俺夕べ女房と喧嘩して今夜は飲んで来るからって、啖呵を切ったんだ。だから付き合ってくれよ」
古田なじむは藤城の悩みがありそうな毎日を見ていると、医療探偵団の相方として放ってはおけないと、喧嘩の件はうそを付いて、飲み会に誘った。
藤城は余り乗り気ではなかったが、古田にはどこかで聞いてもらいたいと以前から思っていたこともあり、二人だけならと出かけることにした。
「まあまあ、藤城君今夜は二人の仲だろ、気兼ね無しにとことん飲もう」
「古田主任も奥さんとの喧嘩大丈夫ですか、家に帰った時気まずくないですか?」
「そんなの放っておけばいいんだよ。あんなブス!」
と言った後、古田は大好きな妻と世界中で一番幸せな結婚生活を送っていると思っているのか、似合わないセリフに思わず吹き出しそうになった。
「主任! 取りあえずビールから始まって、ワイン、日本酒、そしてウイスキーの水割り、一時間のうちにこんなにも飲んだんですね。僕まだ酔った感じ全然しないんですけど」
「藤城君もお酒意外と強いんだね。でも、そろそろ話してくれてもいいんじゃないの。その話胸の中に納めていないで」
「そうですね。誰かにずっと言いたかったのに,信じてもらえない話だからと諦めていたんですよ。だけど主任なら分かってもらえるような気がするので、少しずつ話しますね」
藤城はまわりをためらうように小声になった。
「実は、小学5年生の時、万引きで補導されたんです。それが一度じゃなく5回も、同じクラスの3人から脅されて、家にあった現金も時々持ち出しては渡していたんです。親父やお袋も警察に呼ばれるたび、泣いて泣いて何度も頭を下げて謝っているんだけど、自分は悪くないと思っていたので、顔を伏せても泣きもしないし誤りもしなかったんです。
その態度が余計に大人たちの堪に障ったのか、親たちだけじゃなく担任の先生からもお巡りさんからも殴られました。そのたびにあの3人にいつか仕返しすることが出来たらと我慢し続けました。3人はとてもずば抜けて成績が良いと評判で、彼らの親は病院長、市議会議長、警察官で、僕の家はいつ潰れてもいいような小さい雑貨店なので、汚い服を着ていたし、万引きをすることが当たり前のような少年に見られていたんです。誰が見ても彼らがいじめをして楽しんでるなんて疑いもしなかったし、先生に訴えても信用してもらえないので、5年生ではただ耐えるだけ、声に出せなかったんです」
「でも、そんな事件を起こしたら学校にいられないじゃないか」
「それが不思議なんですよ、補導された次の日なのに学校でもクラスでも誰も普段と変らず僕に話しかけて来るんです。今思えばもし僕が補導され少年院でも連れていかれると、いじめのターゲットがいなって楽しみがなくなるからと、それぞれの親に頼み込んで学校まで持ち込まないように、もみ消してもらったようなんです。そんな風だから、彼らは優しい友達思いの子供達だとますます優等生扱いされていたんですね」
藤城の話を聞いた古田主任は、自分も同じような経験をしたと話すが、藤城にはもっとそれ以上の秘密があるらしく、二人とも酒が進んでも酔えない状態でいる。




