ポイ捨てされた10億円の宝くじは動画投稿者から市長室に匿名で送られ、市長の一番力を入れたい事業に使って欲しい旨の手紙が添えられていた。
中田明人 その4
「昨日のニュースびっくりしたなぁ。所長が記者会見の最後を見届けないままテレビのスイッチ切っちゃったから、俺たち家に帰るまで知らずにいたけど、その後すぐに宝くじが10億円当たったって、テロップが流れたんだよ。女房の話では買い物に行った先々でこの話で持ちっきり、大騒ぎだったんだって。もし番号を公表してなかったら、動画の投稿者が独り占め出来たのかなぁ。市長も投稿者ももったいないことしたなぁ」
古田なじむが自分の事のように悩む姿に、皆んなはあきれていたが、そのお金が今後どう使われるのかは気にしているようだった。
その後動画の投稿者から匿名で、市長室あてに当選した宝くじが送られて来た、そして中田市長の今一番力を入れたい事業に使ってほしい旨の手紙が添えらえており、市長はこんな有難いことはないと、投稿者に感謝するとともに、今どこの自治体も悩んでいる人口減少に歯止めを打つためには、すぐにでも少子化問題を解決出来るよう、子育て支援に力を入れたいと語っていた。さらにどんな方法があるのか議会に相談はするが、この10億円を活用して、市の予算にも計上してもらい、自分としては例えば従業員100人以上の事業所に順次小児科専門病院と併設する託児所を建設し、併せて地域の住民の皆さんにも利用してもらえるようにできたらいいなとコメントしていた。
「中田市長はこれで汚名挽回だね」藤城が言うとすかさず所長が
「それを言うなら汚名返上でしょう」
「所長、何にも知らないんだね。調査によると本来汚名返上は正しいかもしれないけど、一度汚れたものを元に戻すという意味で汚名挽回を使う人も結構いるんだって、これだけ世の中に浸透していると新語として認めざるを得ないから、もう間違った使い方じゃないんですよ」
藤城は得意げに説明をした。
「兎に角、中田市長はこれで汚名返上、名誉挽回、信頼回復となってポイ捨ての件は誰も問題にしなくなるよね」所長は胸を撫でおろした。
「でも、これから何処へ出かけても、ポイ捨て市長さんって呼ばれるのよね。ウウーン可愛くっていいんじゃなーーい」加藤早苗がおねだりポーズでアイドルぽくつぶやいた。
数日後、市役所の正面玄関に横付けされたバスから、市内の観光を終えたお年寄りが、市長に一目会いたいとぞろぞろ降りてくるようになった。市長の仕事の邪魔を絶対しない約束で、市長室を開放して見学を認めたが、あまりにも申込が殺到しているので、バスは一日5台まで、250名を限定として受け入れることになった。
「市長の机の前にパテーションで区切り、その前を行列のようにお年寄りが通り過ぎるんだけど、静かにしてって言っても誰も守ってくれない。市長も自分がまいた種だから仕方ないと黙認してるみたいだね。まるで上野動物園のパンダを見るようでなかなか前に進まない、でも口々に(止めればいいと思っていたけど、本物に会ってみるとなかなかいい男だし、優しそうで逆に応援したくなったわ)なんて言われて評価が高まっているそうだよ」
所長が市役所へ行った際、情報を得て来て皆んな伝えた。そして市長見学ツアーは連日大盛況で、参加者は小グループの集まりだから宿泊施設に一緒に泊める必要がないので、小さな旅館や民宿に割り振りすることで、観光業者からも大変喜ばれるようになった。
ポイ捨てで有名になった中田市長を一目見ようと、見学ツアーは大盛況で、観光業者に大変喜ばれるようになった。




