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 紙くずを道路にポイ捨てした高山市長の動画が全国ニュースやネットで話題となり、謝罪会見が行われた。

中田明人 その2

「皆さーーん、お疲れ様でーーす。あっれーーっ。どうしたの、全員そろってテレビの前なんか陣取っちゃって、お客様の来ない職場だからって勤務中にテレビを見てるなんて不謹慎だわ。しかも、休みの人まで出て来ている。私には早く来いなんて誰も連絡くれなかったくせに、ツーン! 」

 遅番の加藤早苗は自分だけが仲間外しされたと思い、膨れた顔して立っていた。

「加藤さん。あんたは出勤時間にテレビの放送が間に合うから連絡しなかったのよ。休みの人も気になって仕方がないからって出てきているのよ」

 安田直美が加藤に話しかけた。

「テレビって、今から何の放送が始まるのよ」

「やっぱりあんた、夕べのニュース見なかったでしょう。テレビも新聞も全く見ないでユーチューブの音楽ばっかり聞いているから、こういう大事な時に時代遅れしちゃうのよ」

「失礼ねえ。私はお笑い芸人の『オリエンタルシチューのかっちゃん』がユーチューブ大学で配信している動画で勉強しているのよ。政治経済や偉人伝、株や文学はものすごく面白いし、勉強になるから毎日聞いているんじゃない。安田さんこそテレビや新聞を見てるって言ってるけど、殺人事件しか興味ないくせに何よ偉そうに」

 二人はわーわー泣きながら取っ組み合いの喧嘩を始めた。

「何やってるの二人とも。そろそろテレビが始まるんだぞ、いい年をして喧嘩するなんて恥ずかしい。早くこっち来て座りなさい。その前に加藤君皆んなにコーヒー入れてくんない」

 所長はめったに人に命令するタイプではないが、加藤には結構雑用を頼むことが多く、加藤もまたかという顔をしてインスタントコーヒーの瓶を食器棚へ取りに行った。

「加藤君、今から中田市長の謝罪会見が始まろうとしてるんだ。自分のポケットに入っている紙くずを道路にポイ捨てする動画がSNSに投稿されたんだ。市長自ら高山市の路上ポイ捨て禁止条例に違反したとして、全国ニュースでもネットでも大きく報道されたんだよ。だからどんなふうに謝罪会見をするのか皆んなが注目してるんだよ」

「所長さん、そんな話しを聞いたらコーヒーどころじゃないわ。私もテレビを見させてよ」

 加藤はコーヒーカップを並べ始めたが、手を止め皆んなの前に戻ってきた。

「コーヒーを入れる時間くらいはまだあるから、何だったら安田君も一緒に手伝って上げて」

 皆んなにコーヒーを入れ終えた頃、中田市長の記者会見が始まった。


市長

「この度は私の恥ずかしい行為で高山市民の皆様にご迷惑をお掛けし、大変申し訳ございませんでした」と深々とお辞儀をし謝罪を行った。

記者

「市長は今回ポケットの紙くずを道路に捨てる動画がSNSに投稿されて発覚しましたが、今までも常習的に行っていたんじゃないですか」

市長

「私は酒が入っていたので、ポイ捨てをやった記憶が無いんですよ。でも動画を見る限り間違いなく私です。たまたまこの時だけなので、常習的では無いと思います」

記者

「高山市ポイ捨て条例に市長自ら違反したので、責任を取って辞職する気持ちはありませんか」

市長

「大変申し訳なく思っていますが、信頼を回復するよう今は職務を全力で取り組んで行きたいと思います」


 テレビを見ていた誰もが、市長の歯切れの悪い記者会見にがっかりした表情で、それぞれの席に着いた。

「酒が入っていたから記憶に無いなんて話し、誰も信用しないよな。宴会で酒を注ぎに来た相手に一生懸命力説したのに、若い時と違って年を取ってくると次の日は何を話したか全く覚えていないってことは多々あるけど、飲んでいても何かをしたことくらいはちゃんと覚えているよ。

 まるで汚職した国会議員が記憶にございませんとか秘書がやったことだと自分の保身のために見え透いた答弁をしているのを何度も見てきたけど、それと全く一緒じゃないか。何か印象の悪いみっともない記者会見だったよな。

 これからも自分の事だけでなく、職員が不祥事を起こした時、そのたびに謝罪会見をしなければならない。そんな場面でも鮮やかな答弁が出来るように訓練しておく必要があるよな。市長にはしっかり勉強してもらいたいものだよ」

 さすが所長は年配者だけあって的確な指摘に皆んなもうなずいていた。

 謝罪会見が歯切れの悪い形で終わったことから、全国的にもさらに批判が高り、ポイ捨てが常習的だったのか、今後は絶対やめると約束できるのか、自らの責任はどう取るのか再度の謝罪会見が求められる状況となっている。

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