死んだはずの仲間が城田の活躍で生き返り、市長も交えての飲み会で部長への昇進が話題になる中、清見支所から3年前の日付でSOSが届く。
城田英雄 その11
「市長さん呼んできたぞ。今日は飲みたい気分だったんだって。グッドタイミング。城田君と高原君お前たち二人はいつも肝心な時にはいないからもう諦めているよだって」
「それは許すって意味ですよね市長さん。市長さんのキャッチコピーは何でも『苦にしません』だから、君たちよかったなあ。それでは市長さんの音頭で乾杯お願いしまーーす」
井上がうまく取り持ってくれた。
「それでは乾杯! くーーっ、今夜のビールは最高だ! ところでみんなの前では言えないけど、君たち5人には期待してるんだ」
「5人というあと一人は誰ですか」
「佐々岡君だよ。彼は脅されていて何も悪くないことが判明したんだ。飲み会も彼が会場を手配しただけで一緒に参加していなかったことが分かったんだ。警察署長と駅長とは名字が一緒だったから、みんな兄弟と思っていたけど、全く関係なかったみたいだよ。それに悪事を起こした5人は同級生だったんだって、佐々岡君は利用されただけだから彼一人釈放されたんだ」
「僕たちと同じように部長に昇進出来るんですか」
「一緒って訳には行かないから、1ケ月遅れて市民部長に昇進だよ。彼もここに呼びたかったけど、顔合わすのつらいと思うから、昇進祝いの時また飲もうか」
「井上君が悪事にメスを入れたから問題が発覚したんだ。一番の功労者だよ。よー―っ、建設部長!」
「三枝君は財政課長からそのまま企画財政部長に昇進だな。今の部長は免職になったけど、当然だよ。飲んでばかりで、全然仕事してなかったみたいだったから。ところで三枝君は挨拶がうまいから僕の都合の悪いときいつでも変わってくれるから助かるよ。あんなに気の小さかった三枝君が、今は人前でも堂々た話せるようになったのは、何か秘訣でもあるのかい」
市長が一番力不足と心配していた男が、こんなに頼りになって、与えられた仕事が人間を成長させるのだ信じていた。
「実は、不思議なことがあったんだよ。僕が痴漢に間違われて犯人にされそうになった時、どこからかゴーストが現れて叫んだんだ。やってないって言えーーっ、言わんと死ぬぞーーって、だから勇気をふり絞って言ったんだ。その時の声が城田君にそっくりだったんだよ。その事があってから、何でも逃げてちゃダメだ。命を掛けて真剣に向かうことにしたのさ。そうしたら今は慣れてきたのか人前に出でも全然怖くないんだ」
「うふふふ。そうなのよね」
「栄子さん含み笑いなんかしちゃって、どうしたの」
「城田さん、もうみんなに話したら、ずっと胸に閉まっておくのもつらいし」
「分かった。飲みながらゆっくり話すね。市長さんも驚かずに聞いてください」
城田は、一連の事件をつぶさに説明して、こうして死んだはずの仲間が生きて再会できた喜びを分かち合うのだった。
「そうだったのか。時々夢に見る光景はまさにこのことがあったからなんだ。みんな城田君のおかげで助かったんだ。有難う」
「でも、城田君だけ被害がなかったのは何故」
「もし、僕も被害を受けてたら、誰が助けるんだよ。今頃あの重い新聞の中で、俺たちみんながうごめいていたはずだよ。僕に及ぶまでに、栄子さんが行動して教えてくれたから助かったんだよ。栄子さんもこのメンバーの一員だね」
「焼きあがったよ。さあさあ早く食べないとさめちゃうよ」ママさんが沢山の鮎を串焼きにして持ってきた。
「どうしたの。こんなに沢山」
「それが不思議なの。お店の前に届けてあったの。箱の上に3年前の明日の日にちが書いてあって、差出人が清見支所一同になってて、城田さんお願い助けてって書いてあったんだけど」
「えーーっ、よわったなあ。また冒険に出なきゃならないの。もう、よしてくれよ。仕事に専念したいから、さもないと市長さんに叱られるよ」
「事情はよくわかった。君だけに特命だ。SOSが来たらいつでも出動だ。しかし臨時幹部会に出席しなかったこと、みんなの前で叱るからな」
「市長さんそれだけは勘弁して下さーーい」
アユと一緒に届いたSOSにはまだ誰も気づいていない世界を震撼させる、恐ろしい事件が潜んでいた。




