事件の当日殺人現場となった電車に高原と栄子が一緒に乗り込もうとしているが、何事もなかったみたい。
城田英雄 その3
とうとう6月12日問題の日が来た。高原君は県庁に出張で高山駅8時00分発の特急に乗るんだったよな。そろそろ時間だけど高原君はどこにいる。えーーっ6号車に栄子さんと仲良く手を繋いで乗ろうとしているじゃないか。あれほど絶対に一緒になってはダメだと言っていたのに。
城田は思わず(高原君、今乗ったらダメ!」と叫んでいた。
高原は声のする方へ振り向いた瞬間ペットボトルを落としてしまった。ころころと転がっていくのを恥ずかしそうに追いかけて、拾ったときには、乗り込む乗客の最後尾になってしまい、座れる席は全部埋まってしまった。
高原一人だけが6号車後方の吊革につかまり席が空くまで立って乗ることになってしまった。この時栄子は高原から正反対の前方に座っている。
しかし、電車が動き始めたとき、突然栄子が席を立ち、後ろを向いて高原に手招きをした。口の動きで「こっち空いたよ」と言ってるのが誰にも読み取れた。
栄子の隣の乗客が前の車両へと移動し、席が空いたのである。
高原は栄子の招きに何んのためらいもなく、しかし満車の中を歩くとあって、額の汗が飛び散るほど真っ赤な顔で、栄子に近づいて行った。
城田は思わず(ダメ!ダメ!)と叫んで、さらに、(どうして、二人が一緒になったらダメってあれほど言ってたのに。バカーーっ、お前ら死んでしまうぞ!)
城田は大声で叫んだものの何も起こるような気配がない、事件がこのまま何事もなく済むのか、これから起きるのか肩透かしを食らったような面持ちで二人に近づき聞いてみた。
(君たちのんきにしてるけどけど知らないよ。でもおかしいな、事件の起きた時間はとっくに済んでいるというのに、本当に何も起こらなかったのかい)
事前に情報を伝えておいたのが功を奏し、事件を回避できたのだろうか?




