杉島は栗山から市役所内部の悪の軍団に関わる大元は川上企画財政部長だと確信するが、それを公言した栗山は交通事故により殺処分されてしまう。
武山裕人 その7
「杉島先輩、久しぶりじゃないですか。こんな僕に用事って何ですか」
「栗山君、知ってたらでいいんだけど、長期入院してた人で臓器移植をしたって聞いたことあるかい」
「今は人事の方で特別なことがない限り、入院の内容を知らされないことになっていますよね。だから、みんな差し障りのない病気だったらオープンにしちゃうけど、ちょっとやばい病気なんか本人は絶対言わないし、みんなも察して聞かないことにしているんですよ。 最近どこの職場でもそういう風に他人のことあまり関心持たなくなりましたよ。でも、ちょっと待ってください。一年以上入院して三ヶ月前に退院した人と現在入院中で半年以上も経っている人がいますけど、ここ数年では5人ぐらいいますよ」
職員録の綴りをめくりながら、場所を変えようと耳打ちをしたので、周りの職員に悟られないよう、世間話のふりをして来客用の談話室へ移動した。栗山は、インスタントのコーヒーを入れながら、
「ずっと不審に思っていることがあるんですよ。僕たちが市役所に入ったころ組合運動が盛んだったでしょ。その後郵便局も郵政民営化でPTとか国鉄も電電公社もJRやNTTに変って、その流れで全国的に労働組合が衰退をすると同時に、この市役所でも組合が随分おとなしくなりましたね。だからあの当時よくみんなで飲みに行って午前様も当たり前だったけど、確かに仕事も忙しくなったけど、今は職員同士のつながりも希薄になって、仲間意識も無くなりましたねでも、そんな中、選ばれたものだけで、仲良しグループを作ろうってお誘いがあったんです。最初は10人程度から始めるけど、君は優秀だから特別に選ばれたんだって、その時はそんな風に特別に見られているんだったら、もう話しを聞かなくても入ろう何て思ってたんですよ。
そして、その話に僕を呼んだのが川上企画財政部長だった訳、あの部長だよ。市役所に市長が2人いるって言われているその大物から直々に呼ばれたんだ。僕もその時は舞い上がったよ。でも、目的が何なのか分からなかったんです。
仲間を集めて小さな組織を作ろうとしているって。話しを聞いているうちに自分が思うような、より良い市政を勉強して仕事に生かせるように、自分の中で他の職員よりワンランク上のエリートで仕事が出来たらなんてつい期待してたら、この組織に入って俺の言うことを聞いとけば出世は早くなるし、そのうち徐々に話すけど、いずれ君たちは選ばれた人間だから、永遠の命がもらえて、すばらしい世界を体験できるんだって言うんだよ。部長もそのために臓器移植をしたんだと、今は技術がどんどん進化して臓器を提供した人もされた人も一緒に永遠の命が保証されるんだって、だけど選ばれるにはごく少数の優秀な人間じゃないとダメなんだって、だから俺は君を選んだって言われたんです。
僕はその話を聞いて急に気持ち悪くなってお断りをしたら、その代わりこの話を知った以上公言したら命は無いからと脅されたんだ。杉島先輩に話してしまったから、僕命ねらわれるかも」
「実は僕も水面下で調べていたんだけど、どうも市役所の大元は川上企画財政部長だったんだね。よーーく教えてくれたね。栗山君絶対誰にも言っちゃだめだよ。命が大事だからね。嬉しい情報をもらったから、少し進展するかもしれない。これで安心して通常業務に励んで、目立たないように」
二人は趣味の話しで盛り上がったふりをして分かれたのだった。
杉島は臓器移植をすると永遠の命がもらえるという話、確かにどこかで聞いた気がした、早速松崎警部補に連絡を取ることにした。
栗山は自宅が飛騨市にあり毎日電車で通勤していたが、この日は帰りに量販店で買い物の予定だったため、自家用車を利用していたのである。杉島が恐れていたとおり、見通しの良い道路でガードレールに激突し即死状態で見つかった。しかしその後素早く処理され、事故現場は跡形もなく片づけられ、彼の死体も消えていた。
栗山が殺処分されたのは、二人の会話がどこかで盗聴されていたと、杉島は恐怖を感じるのだった。
次の日、杉島は川上部長から呼び出され、君はこの秘密を知ってしまった男だから、もう逃れることはできない。入会を拒否すれば栗山と同じ目に会うと脅された。しかし探偵好きの杉山は潜入捜査が出来るとほくそ笑んだ。そして思った
(もしかすると、武山も優秀だし、移植手術も受けているから、確実に勧誘されるだろうと。そうしたら二人の会話は仕事以外は厳禁だ。何か二人だけで通じ合える暗号、でも一番安全なのは筆談かもしれない。だけど僕と栗山の会話は二人共移植手術してないのに盗聴されたんだ。ということは市役所全体が電波で張り巡らされてどこにいても盗聴されているのかもしれないな。気を付けなければ)と
今後松崎警部補とのやり取りは慎重に、権現山峠のトンネル入り口で行うように、確認し合うのだった。
杉島と栗山が市役所内部で会話した内容は盗聴され、そのため栗山は命を奪われた。今後武山との連絡で安全な方法は筆談だと気が付く。




