武山は身に覚えのない交通違反を起こしてしまうが、警察官となった松崎先輩と出会い、原因究明の協力を約束する。
武山裕人 その3
「ピピピピピィー。止まって、止まって、だめじゃないですかぁ。制限速度三十キロオーバーですよ。検問やってるって分かる場所で違反する人なんていませんよ。何か悪いことでもやってるんじゃないですか。覚醒剤なんか隠してるんでしょ」
「えーーっ、僕は普通に走っていたから、違反なんかしてませんよ。第一検問してるって分かってるのにそんな無謀運転なんかする訳ないでしょ」
「警部補、この人違反していないって、言い張るんですよ」
「どれどれ、君の名前は、あれーーっ、武山君じゃないか。今違反して検問に掛かったのにやってないなんて、君が言うとは信じられない」
「あっ松崎先輩、警察官になってたんですか。でも僕は普通に走っていただけで、何にも違反もしていないし、そんな覚えはないんですよ」
「いや、みんなが見てたから、もう逃れるわけには行かないけど、本当に覚えがないのかい」
「本当に、覚えがないんです」
「おかしいなぁ。このごろ交通違反や、犯罪を犯した人を捕まえてみると、知らないとか覚えがないとか言う人が増えているんだけど、何か原因でもあるのかなぁ」
「とにかく、パトカーに乗ってくれよ。これは決まりだから、仕方ないからね」
「おかしいなぁ。僕は全く覚えがないって言うのに」
「実は、武山君のケースみたいな人の共通した一つに、臓器移植をした人ということを僕は発見したんだ。武山君本当に極秘で調べているんだけど、君が差し支えなかったら教えてくれないか。ものすごく大事なことなんだ。日本いや世界中で大変なことが起こりつつあるかもしれないんだ。君も手術したってことはないよね」
「実は、松崎先輩には大変お世話になったし、尊敬していた人だから、本当はこのことは一日も早く忘れて封印しておくつもりだったけど、そのとおり移植のおかげでこうして今を生きていくことができているんです」
「やっぱり、じゃーーぁ、僕に協力してくれないかい。これから極秘で時々会って、何かが起ころうとしている原因を突き詰めようじゃないか。とりあえず今日の違反はみんなに悟られるといけないから、普通に違反切符切るよ」
「分かりました。でも、僕にはまだ違反をしたという自覚がないんです。このことも納得できないので原因究明の協力しましょう」
松崎先輩は臓器移植を受けた人に、犯罪を犯していても記憶がないと主張する人が多いことに着目し、原因究明の協力を武山に依頼する。




