杉島と課長が食事に行ってる間、杉島の作成したパソコンのデーターが別の資料と置き換わっており、杉島は一人留守番をしていた武山を疑うが?
武山裕人 その2
「ところで、課長さん僕はこの福祉に十年もいるけど、ちよっと長すぎませんか。こんなにひとつの職場に長くいる人って他にいないでしょ。普通平均三年で次の職場に異動する人が優秀な職員だって誰かが言ってたけど、ほかの職場に引き取り手がないってことは、よっぽど僕は出来の悪い職員だってことですよね」
「杉島君、本人を前にして言うことではないが、他の職場の部長たちみんなが是非うちに来てほしいって、言ってるんだよ。君の穏やかな性格と絶対やり遂げるという根性に惚れているみたいで、実はうちの部長が手放さないんだよ。たぶん次の人事異動では君は間違いなく対象になると思うけど、どこの職場へ行くかで大騒ぎになると思うよ。きっともめるんじゃないかな。ある部長なんかお婿さんにほしいって、それがだめなら一人娘を嫁に出してもいいからって、よほど自分の子供にしたいみたいだね。僕も分かるような気がするなぁ」
「それはありがたい話ですけど、こんな僕のどこがいいんでしょうか。とにかく、僕が武山を今度の異動までにきっちり引き継ぎしておけばいんですね。武山、明日から俺の仕事一緒にやるぞ。手伝いながら覚えろよ」
「ところで、あれーーっ、パソコンのデーター出てこない。どうして。何にもかまっていないのに。おかしいなぁこれって消えてしまったのかなぁ。うっそーーっ、冗談でしょ。まじーーっ、よわった、もう印刷すればオッケーだったのに。土日の二日間が何にもならなかったじゃないか。課長大変です。明日の部長用の資料が消えちゃったよーーっ」
「えーーっ杉島君、よわったなぁ。僕はパソコンのことは全く分からないから、仕方ないけど、さっきとりあえず試し刷りしてくれた資料で明日説明するから、来週の月曜日までで、正式なもの間に合わせてくれればいいよ」
「課長、僕今度の金曜日補助金の申請で県庁へ行くことになってるんですよ。その資料は毎年顔が引きつるくらい神経使って作るんですよ。そのためにこの二日間で部長の資料を済ましておきたかったのにーーぃ。でも、どう考えてもおかしいなぁ。武山、お前俺たちが食事に出て行っている間、何かしなかったのか。全然違う資料と置き変わっているなんておれがやるはずないだろ。武山誰かこなかったのか」
「俺は何にもしていないし、誰も来なかったよ。ただちょっとだけうとうととはしたけど。ほんの数分さ」
「本当か、課長この状態って、考えられないんだよ。僕がやる訳ないんだもん。納得できない。でも仕方ない。どんなに嘆いたって復活はあり得ないから。課長明日の部長の説明はテスト打ちした資料で説明お願いします。もーーう、疲れがどーーっと出たよぅ」
武山はまだ、自分の不審な行動で誰かに迷惑をかけていることに、気づいていない。




