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 純一の体の中に勉と一哉の臓器が移植され、このままの状態でいると純一は普通の寿命で終わり、勉と一哉は永遠の命が保証される。純一は舞台俳優で寿命を全うしたいから永遠の命は望まないと決めていた。

 純一、勉、一哉の三位一体 その2

「だから俺も移植に関してずっと考えていたことがあるんだ。この方法で行くと人類は優秀なものだけが残り、後は淘汰されるんだよ。臓器移植技術がさらに向上すれば、もう生殖機能なんて必要ないんだ。そしてやがて男女なんて区別もなくなるかもしれないんだ。

 地球がこれから先何億年の寿命があるのか分からないけど、俺は浦島太郎じゃない、竜宮城から帰ったとき浦島は、まわりに知らない人ばかりで悲観して玉手箱を開けておじいちゃんになってしまうけど、俺は永遠の命をもらって地球が終わる最後の日まであきらめず、ずっと生きていくよ。

 周りに知らない人ばかりでもかまわないじゃないか。またその時代その時代で仲のいい友達を見つければいいんだよ。気の合わない人やいやな人なんか自分の中で切り捨てていけばいいんだよ。もちろん一哉は永遠の友達だぞ。

 地球が大洪水になって、ヒマラヤの頂上にしか住めなくなるほど追い詰められても、最愛の妻や子供達を最後まで守って、地球の最後の日は隕石の激突で終っても。それを見届けるまで絶対死なない。ずっと生き抜くんだ」

 勉はたくましい根性でもう現状を受け入れているようであった。

「おい、勉君、一哉君、うるさい、静かにしてくれーーっ。今演劇の真最中なんだよ。気が散っちゃうじゃないか。クライマックスの大事な場面なんだ。あと少しで終わるから大人しく我慢しててくれよーーっ。頼むよーーっ」

 有梨純一は心の中で必死に叫んだ。

 会場の大拍手で無事演劇も終わり、純一が舞台の袖に引っ込んだ。

「勉君、一哉君、ありがとう。ものすごく緊張したけど無事終わったよ。君たちみたいに警察官にはならなかったけど、今回は刑事役で出たんだ。ほんの一瞬でも一生懸命やってると、正にその仕事に就いてるみたいで、いろんな仕事の一番おいしいところが体験出来るんだ。あっごめんごめん。大事な話をしなければならなかったんだ」

「そんなこと、もう言わなくっても分かってるよ。一哉とすでに話をしてたから」

「でも、知っておきたいだろ。僕は交通事故に巻き込まれて激しく胸を打ったんだよ。そして両方の肺の機能を失って人工呼吸でやっと命をつないだのさ。でも、ちょうど脳死状態だった勉君と一哉の肺は元気で僕の体に適合するって、あっという間に移植手術されたんだ。後で聞いたけど、君たち二人に何かあったときは、僕に移植するって最初から決まっていたんだって、勉君が僕の右の肺、左が一哉だよ」

「俺たち永遠の命をもらったって思っているんだけど、どうすればこの状態を抜け出せるんだよ」

と勉が言うと、やっぱり勉君だって自分の体に戻りたいんだと一哉は感じた。

「僕が聞いているのは、君たちが自分に戻れるのは、僕の脳のどこかのスイッチを切り替えると、君たちのどちらかになったり、僕になったりするんだ。

 僕が君たちのどちらかと入れ替わった時、暗闇の中で生活をすることになって、その場合移植した人と同じ権利がもらえて永遠の命が与えられるんだって。

 だけどこのままだと僕は普通の寿命で終わるらしいよ。その切り替えは強制的に手術でも出来るし、ものすごく努力をしなければならないけど、三人の協力によって切り替えることも出来るって聞いたんだ」

 純一はいつの間にか知らないところで、情報を得ていた。

「俺はかまわないぜ。このまま、純一君の体の中でじっとしていても地球の寿命の長さを考えたら、ほんの瞬きにもならないかもしれないんだ。これくらい我慢できるよ」

 勉は完全に腹をくくっている。

「だけど純一君は移植された方だから、君が一番頑張らないと俺たちと同じ権利はないんだよ。君の臓器を誰かに移植しない限り永久の命がもらえないなんて、さびしいよ。だったら君は頑張るよね」

 やっぱり勉は未練があるようだった。

「ぼくはいいよ。君たちは一人の人生で何億年も生きてくれ。僕は舞台俳優で八十歳まで生きるとしたら、何百人の人生を演じることが出来るんだ。とりあえず五百人を目標にするよ。だから君たちも協力して世界にも誇れる最高の舞台俳優になるよう、体の中から応援してほしいんだ」

 純一はこのままの人生で十分と決めていた。

「そうか、純一君は俳優として何百人の人生を全うするんだ。よーーし僕は精一杯協力をするからな。へークション!」

 一哉のたよりなさが露呈した。

「一哉君!やめてくれーーっ、クライマックスで皆んなが感動しているときに、くしゃみなんかされたら、まるでお笑い花月劇場になっちゃうじゃないか。一哉君きみは出てこなくていい。中で大人しくしててくれ。僕は勉君だけでいいよ。勉君頼むよ」

「ヘーークション、分かった」

「あーーあっ、この二人で大丈夫かなぁ。先が思いやられるよ。早くどこかへ引っ越してほしいと思う気持ちと、一人では不安だから応援してほしい気持ちと、何だか複雑な気持ち」

「純一君の心の中は全部お見通しだよ。一哉さえ邪魔しなければバッチリだよ。泥舟に乗ったつもりでまかせろって!」

「ゲーーッ、泥舟! もうあきらめるよ!」

 純一の体の中で、勉と一哉も加わり、三人が互いに情報交換が出来る、正に三位一体の最強の人間として生まれ変わった。

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