梶今五月之介の一周忌の法要が棚橋孝太朗の司会で始まります。
飛騨高山にて その12
「皆さん、遠いところ、またお忙しい中、梶今君の一周忌にお集まりいただきまして本当に有り難うございました。梶今君の奧さんに代わって、私棚橋が司会をさせていただきます。
あれから早いものでもう一年が経ってしまいましたが、こうして健康で再び会うことが出来ることを非常に楽しみにしておりました。
私もおかげさまで体調も良くなり、仕事も順調に進んでおりまして、これも梶今君のおかげだと思って感謝しております。
それでは、梶今君の奥様から一言挨拶をしていただきたいと思いますので、皆さんよろしくお願いいたします」
「皆様には大変お世話になり、また遠いところをお出かけくださいまして、本当に有り難うございました。
無事に一周忌の法要も済まさせていただきました。きっと、主人も喜んでいることと思います。
先ほど棚橋さんから、どうですか落ち着きましたかと聞かれましたが、主人が元気な頃は一緒にいることが当たり前だったし、これからもずっと一緒にいられるものと思っていました。
そして、幸せの豪華客船梶今号に家族皆んなで乗り、飛騨高山に引っ越してきましたが、見るもの聞くもの知らないことばかりで、毎日不安な日々を過ごしていました。
そんな中ご近所さんに大変優しくしていただいて、楽しく過ごしていたのに、映画のタイタニック号の悲劇のように、突然大事な人を亡くしてしまい、自分も正直生きる希望をなくしてしまいました。
しかし、同じようにご主人を亡くされた方の集いがあって、皆んな同じ悩みを持った人ばかりの会があるから、一度行ってみたらと誘われて、参加したところ、立ち直った人たちは生き生きとして、自分を楽しまなきゃって、皆んながとても明るかったのよ。
それで私も自分の人生を楽しもって思ったら、急に元気が出てきました。そして皆さんの体の中で主人が生きていると思ったら、ちっとも寂しくないでしょ。だから皆さん元気で長生きしてね。それが主人へのお礼の代わりよ」
梶今ひとみはとても明るく挨拶をした。
「それでは、お酒の準備も出来たようですので、粗酒粗肴では有りますが、どうぞお召しになってください」孝太朗の月並みな挨拶で宴が始まった。
酒宴が進み、突然棚橋孝太朗がちょっと注目してほしいと皆んなを席に着かせた。そして話し出した。
「みんな、聞いてくれるかい。移植手術された時全身麻酔だったでしょ。よく死んでも魂があって愛する人を見守ったり、憎い人を呪ったりするって聞くけど、あんなのあり得ないと思ったけど皆んなはどうだった。
そんなこと何にも憶えてないし、全く痛みも目が覚めるまで感じなかったし、あれが死ぬって事なんだと今思っているんだけど。
だって、夢を見るときのように手術中にハワイ旅行でサーフィンを楽しんだとか、地獄へ落ちて鬼に追いかけられたなんて聞いたことないもん。いろんな宗教があるけど、皆んなが全身麻酔を経験したら考えが変わるんじゃないかと思っています。
棚橋孝太朗は、司会をしながら、出席者に自分の思いを投げかけます。




