ひとまずそれぞれ実家に戻ることにしたが、途中高山市役所に寄って、姉妹友好都市の5ヶ所目はどこか市長に尋ねた。
飛騨高山にて その6
「市役所はこんなに駅に近いんだ。あっちょうど外に立っている男の人がいる。すみません聞きたいことがあるんですけどーー。よろしいですか」
茜はこわさ知らずで早速声を掛けた。
「いいですよ、どんなことですか。」
人馴っこい男性が振り向いた。
「あのおじさん作業服じゃない。きっと用務員の人だよ、聞いてもムダだよ」
茜が弱腰になっている。
「ちっとも格好よくないし、ダサイわねぇ。でも他に誰もいないし聞いてみてよ」
茜の母幸子が茜に指示した。
「あのーーぉ、高山市の姉妹、友好都市はどこですか。」
茜がダメ元で聞いてみた。
「あーーそれならとにかく中に入ってお話しませんか、どうぞどうぞ」
男は市役所の中へと入って行った。
「えーっ、ここは秘書室。そして市長室に入って行ったよ」
皆んなは戸惑いながらついて行った。
「どうぞここでお話を伺いましょう」
六人掛けのソファーに案内し、自分は市長の椅子に座っている。
「僕ら市長さんと話をするつもりなのに。あの人あんなところ座っていいのかなぁ。知らないよ。でも緊張するなぁ。市長さんてどんな人かなぁ」
有梨純一がつぶやいた。
「ゴホ、ゴホ。あのわつぁいが市長の久仁崎です」
「うそーーぉ、だってどうみても用務員のおじさんとしか見えないもん、ダサイし」茜が言った。
「棚橋のおじさんの方がかっぷくもいいし、市長さんにピッタリだよね」
純一もこの男性を市長と認められず、観光都市にふさわしくもっとあか抜けした人を想像していた。
「ゴホ、ゴホ、さてどんなご用件でしたでしょうな。そういえば高山の姉妹友好都市はどこかという質問でしたね。まずは、姉妹都市は長野県の」
市長の話を遮るように、棚橋孝太朗が迫った。
「もう四カ所は観光パンフレットに書いてあったので分かりました。あとひとつ五所目はないんですか。どうしてももう一ヶ所ないとダメなんですが、もう一ヶ所思い当たるところはないんですか」
「残念ですが、それ以上はありません。そして簡単に作れるものじゃありません。でも外国だったらアメリカはコロラド州のデンバー市、中国の麗江市が友好都市になっていますが。」
「いや、外国ではなく、日本じゃなきゃダメなんです。急がないと私達全員に何かが起こるかもしれません。極端に言えば全員一緒に死ぬかもしれません。何か高山と深い関係のある都市は他にはないんですか、お願いします」
「えーっ私達死んじゃうの、こわいわ。市長さんなんとかしてください」
日影直美が急に泣き出した。
「いったい何を調べようとしているんですか。突然の話で、どう協力していいのか分かりませんよ」
「分かりました。私棚橋孝太朗が代表でその訳を話します。私達は梶今五月之介さん、今殺人事件で話題になっている方から臓器を移植していただいた者です。彼は無実だと訴えている手段を私達に託して、メッセージを送っているような気がしているのです。ところがどうしても五人そろわないとダメだと分かったのですが、その繋がりに関係していることは梶今君と早稲田の文学部の同級生ということと、どうも姉妹、友好都市から一人ずつ関係しているらしいんですが。五カ所目がないとしたらそれに相当する関係の都市で思い当たるようなところはないのですか」
高山市長に姉妹友好都市の5ヶ所目を尋ねたが、存在しないので、5人目の人物の行方は何処に?




