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早稲田を卒業し祖父の経営する会社に就職する棚橋孝太郎、まだ中学生、高校生と間違えられるほどあどけない男であるが、得意なパソコンを生かし仕事をテキパキこなしていきます。

 棚橋孝太朗 そのⅠ 

 神奈川県平塚市の株式会社平塚物産では、今年15人の新入社員の採用が決定しており、その中に、社長の棚橋藤喜郎の孫である孝太朗が含まれていた。

「今年の新入社員の中に、社長の孫がいるんだって。どうせ生意気なやつだろ。一緒の職場にはなりたくないよなぁ」

「課長や部長がかわいそうだよ。ちょっと注意をしただけで、社長に大袈裟に訴えて、次の日社長室に呼びつけられるなんて事も、そしてもっと悲惨な者は隣の席になったやつ、ものすごく気を遣うぞ。それを考えただけでも毎日が憂鬱になりそう」

 社内にはその情報を知った社員達が、廊下や階段の踊り場で、ひそひそと立ち話をしていた。

 入社式が終わった新入社員は、社長から交付された辞令書を手に持ち、後ろで待っていた配属先の各部長に引き取られて行った。

 しかし、今回孫が入社という特別な事情の為か、社長が自ら孝太朗と一緒に各職場を挨拶して回った。

 孝太朗は早稲田卒というのにまだ中学生、高校生でも通るほどあどけなく、社長が「今度皆さんにお世話になります孫の孝太朗です。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします」と探々と頭を下げた。やはり棚橋藤喜郎は社長にふさわしく、かくしゃくとした姿に、みんながこの会社に勤めることができた喜びと、もっと会社のために頑張る勇気がわいてきたのである。

 終戦直後の昭和二十二年に、棚橋藤喜郎が小さな食料品店から一代で築き揚げた平塚物産は、今や神奈川県でも五本の指に入ると言われている、大躍進を遂げた会社なのである。

 課長、部長は毎週月曜日の早朝、幹部会が行われるので、社長に会う機会に恵まれているが、その他の一般社員は、入社式で会ったきり、雲の上の存在であるので、それ以来一度も会ったことのないという者ばかりで、もし現在の状況を知るとしたら、市の各種委員の代表や外郭団体の長など重要な要職を歴任しており、地元の新聞で市長との対談記事や会議の際の挨拶を取り上げた写真から、その存在の大きさを知るのである。

 そんな社長を間近に見られるとあって、自分の職場に回ってきたときは緊張のあまり、失禁する者もいたほどである。

 しかし、孝太朗は保育園の入園式を迎えてはしゃぐ園児のように、うれしくて、うれしくて仕方がないといったあどけない姿で「どうぞよろしくお願いします」と挨拶する声が、みんなの安心感を誘い、思わずかわいいとささやいていた。

 孝太朗の配属先は、社内でも優秀な者だけが選ばれる営業部と決ったが、社内の部課長はみんな「あんなに心配して損しちゃった。まるで中学生じゃないか。気を使わなくて済みそうだし、楽しそうな彼ならきっと職場を明るくしてくれるぞ」とか「お笑い芸人の誰かに似てるよ。誰だったっけ、寛平さんだ。顔を見てると吹き出しそう。あははは笑っちゃう。仕事はやらなくてもいいから。いてくれるだけで楽しーーい」とあれだけ心配していたことがうそのように、誰もが彼のファンになっていた。

 そして、その営業部では始業時間になっても、孝太朗は部長の席の横にある来客用のテーブルで新聞を読んでいて、なかなか席につく気配がない。山下直樹係長は孝太朗がいてくれるだけでいいと思いつつも、他のみんなが何故彼に仕事をさせないのかという視線を感じ、内心ドキドキしながら「孝太朗君もう仕事の始まっている時間だよ。君にやってもらいたい仕事があるから、えーーっと誰に頼もうかなぁ。山田君、君は孝太朗君のとなりだから頼むよ。彼に仕事を教えてやってくれないか」気の小さい山下係長は声は上ずっていたが精一杯孝太朗に指示を出した。

 山田修は、なぜ僕が教えなきゃならないの、自分でやった方が早いのに、面倒くさいなあと思いながら「孝太朗君、席に戻って、僕が今から言う資料をパソコンで整理して、印刷し直してほしいんだけど、いいかい」と言いながら、今やりかけの仕事を彼にさせることにした。

 孝太朗は読んでいた新聞をていねいに折りたたむと、ハーーイとうれしそうに返事をし、席に戻った。

 実は孝太朗は、パソコンは大の得意なので、山田の説明を受けながらキーなど見ないで、両手でパチャパチャと打っていくうち、説明が済んだ頃には資料が出来上がり、もうプリンターから次々と紙が出て来ていた。

 山田は、もし自分がやるとしたら一日かかる仕事を、孝太朗は説明時間三十分のうちに仕上げてしまったことに、ショックを受けたが、先輩としてのプライドもあり、決して孝太朗をほめることはしなかった。

三人目は飛騨高山の友好都市、神奈川県平塚市が舞台です。早稲田を卒業し祖父の経営する会社に就職した棚橋孝太郎が活躍するエピソードを面白く描いて行きます。お楽しみに!

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