日影直美の夫幹男は、やはり梶今五月之介の早稲田の同期で、こちらは棚橋孝太朗から連絡を取った。
日影直美 その3
「直美知らない人からお前に電話だよ、何か急いでるって言ってるぞ」
日影幹男は直美に取り次ごうとしたが、直美が一向に来る気配がない。
「おーーい直美、どうして出ないんだよ。ずっと待って見えるんだぞ。先方さんに失礼じゃないか」
幹男は受話器の口を手で押さえ、何をしてるんだという顔で待っている。
「だって、私に電話がかかってきたことなんて、一度もなかったじゃない。知らない人からなんて怖いもん、私出ないよ」
幹男は直美の言うことが当然だと思い断ることにした。
「すみません。妻は出たくないって言ってるんです。切っていいですか」
「ちょっと待ってください。ご主人ですよね。私は棚橋孝太朗と言いまして、奥さんと同じ人から臓器の移植を受けた者です。
今から大切な話をしますから、絶対に切らないで聞いてください。もし、信じてもらうなら、もうすぐ奥さんに私と同じ症状が現れるはずです。じゃぁその前に話を続けます」 棚橋孝太朗は西園寺茜の母幸子が電話で伝えてくれた内容のとおり、臓器提供者が殺人の容疑を掛けられている人で、無実だと体の中で訴えているような気がすること。それを解明するためには、五人が揃う必要があること、そして、一番大事な話は皆んなが同じように腎臓の辺りが痛むこと。そうこう話しているうちに
「そろそろ痛むはずです。僕は兆候が出始めました。あっ、イタタタタタちょっと辛いです」
「おとうさん。イタタタタタ、この頃痛くなるし辛いのどうして」
「本当です。妻も同じように痛がっています。信じますから、どうすれば良いのか教えてください」
「とにかく、飛騨高山に来てほしいんです。梶今君の家に皆んな集合するよう他の人にも連絡しているのです」
「そういう事情でしたらよく分かりましたが、実は妻が現在妊娠中で飛騨高山まで行けるだろうかと心配ですが、直美お前はどうなんだ」
「お父さん、私は生まれ変わったのよ。そんなくらいへっちゃらよ。丈夫な赤ちゃん生むためなら頑張って行ってみるわ。それよりもお父さんの車の運転の方が心配だわ」
「今までの直美じゃないみたい。もう何も心配する必要は無いようですので、じゃあ早速二人で向かいます」
連絡先の分かった人達に飛騨高山に集合するよう電話で伝えることができた。




